電流モデルの開発
熊本市立三和中学校
大窪 裕次郎
1.はじめに
 今まで,操作的に学習することができるイオンモデル,天体モデルなどを開発してきた経験から,生徒たちが自然現象を理解できないのは,それ(学習内容)が難しいからではなく,イメージがわかないからであると考えるようになった。
 自然界は,当たり前のことが当たり前に起こっているだけであり,イメージさえわけば,すべての生徒たちが理解できると考える。

2.モデル開発の視点
(1) 新学力観に立った教材開発
 新学力観に立った授業の改善を考えると,教材開発の視点も自と変わってくる。つまり,「どうしたらわかりやすいか」と考えるのではなく,「どうしたら生徒が自分で考え,自然の仕組みを発見できるか」ということを念頭に教材開発を行わなければならない。説明のためのツールではなく,いわゆる思考を支援するツールを開発する。
(2) これまでのモデルの問題点
 これまでは,電流を水の流れ,電圧を水位の差,抵抗を障害物という形で図示して説明することが多かった。ところが,図を見てもイメージがわかない生徒が多い。特に,電圧がイメージできない生徒が多い。そこで,操作的活動を通して,生徒の思考を支援するモデル(教具)の開発に着手することにする。

3.開発したモデルの実際
(1) 材料一覧
◎電源・・・バスポン15 TERADA
◎抵抗・・・外径6mmの赤色の耐油ホース20・40・80p
◎導線・・・外径20mmの透明ホース
◎ジョイント・・・水道の継ぎ手

抵抗1本をつないだ回路のモデル

抵抗は赤色の耐油ホースの両端にシールテープを巻き,外径8mmと外径18mmの糸入り透明ホースを押し込んで作る。

(2)

 モデルのつなぎ方
 各パーツを押し込んでつなぐだけなので,操作が簡単で,いろいろな回路を作ったり,はずして途中の様子を確認したり,操作的に自分の考えを試してみることができる。
(3) モデルの概要
 このモデルでは,電源が水中ポンプ,抵抗が細い管になる。回路図に合わせてモデルを組み立てると,実際の回路を流れる電流の大きさと同じように,モデルを流れる水の量が変化する。並列や直列の場合の電流の変化や,どの抵抗にどれだけ電圧がかかっているかなど,操作的活動を通して考えることができる。

4.電流・電圧・抵抗のイメージ
(1) 抵抗のイメージ
 抵抗の大きいものは水が流れにくいというように,水の流れを邪魔するものととらえるようにした。つまり,回路に抵抗を加えるということは,太い管に一部細い管をつなぐということになる。
 並列や直列につないだ場合についても確かめられるようにしたり,簡単にはずしたり取りつけたりして調べることができるようにジョイントを工夫した。
(2) 電流のイメージ
 単位時間に流れる水の量を電流の大きさと考えることにする。つまり,電流が大きいということは多量の水が流れるということになる。
 今回開発したモデルは,回路のどの部分でもはずすことができるので,回路の各部分を流れる電流の大きさを,実際に流れている水の量を調べる(ビーカーにため,一杯になるまでの時間を比べる)ことで確かめてみることができる。


(3) 電圧のイメージ
 高校へいくと,電圧は電位差と学習する。そこで,電位のイメージは,水中ポンプが水を押し出す圧力,電圧(電位差)のイメージは,その圧力がどれだけ弱まるか(水圧の差)としてとらえさせるようにした。抵抗の部分を通ると水を押し出す勢い(圧力)が弱まるが,どれだけ弱まったかが,どれだけその部分(抵抗)に電圧がかかっているかということになる。


並列回路では,水中ポンプの水を押し出す圧力が直接2本の抵抗に加わることが操作的にわかる。
並列回路では,一方を止めても,もう一方を流れる電流の大きさには変化が見られない。

 このモデルを使うと,1)回路を流れる電流のきまりを確認できるほか,2)同じ圧力で押し出しても,抵抗が大きいと流れる水の量が減少すること,3)直列回路・並列回路の電流の流れ方のきまりも確認できる。

5.おわりに
(1) 開発したモデルの効果
 このモデルを使うことで,電圧のイメージが的確にでき,回路に加わる電圧や流れる電流の大きさについて理解が深まった。特に,並列回路の電圧の加わり方など,目で見ながらイメージできるので,生徒たちには好評であった。さらに詳しい学習効果については追跡調査をしていきたい。
(2) 生徒が「やらされてやっている」か「やりたくてやっている」かは極めて重要な問題である。小学校の学習内容や日常生活との関連を図り,おもしろ実験を組み入れるなど,生徒の課題追究意欲を高めたり,生徒の立場から単元構成を見直すことが必要である。
 今回開発した電流モデルをどのように単元構成に位置づけるかについては,これからの研究課題である。生徒の意欲を高め,課題意識がつながるように単元構成を工夫し,モデルを操作する場面では生徒が(自分の考えを)思い思いの方法で試してみる時間を確保するようにしたい。

ショート回路のモデル


前へ 次へ

閉じる