発見の喜びを実感できる授業を目指して
−中点連結定理の利用を通して−
三重県鈴鹿市立鈴峰中学校
三山 善久
1.教材について
 「○○であることを証明せよ」と結論が与えられた証明問題は,生徒にとって味気ないものであり,証明を学習し始めたばかりの生徒にとっては,証明の必要性や考えることの面白さを感じないまま,ただ機械的に(まるで計算をするように)証明していることが多い。平成9年度の教科書(啓林館)では,「図形と合同」の単元で中点連結定理が取り扱われることになったが,この定理のすばらしさや利用範囲の広さを考えれば,この単元の最後に扱うのがふさわしいと,以前から思っていた。
 本実践は,このような考えのもとに平成7年度に行ったものであり,生徒が少しでも発見する喜びや考えることの楽しさ,図形の不思議さ,定理のすばらしさに気づいてくれればと思いつつ取り組んだ。

2.単元計画
 
(1) 単元名 図形と合同(2年)
(2) 指導時数(全24時間)
二等辺三角形・・・・5時間
直角三角形・・・・・3時間
平行四辺形・・・・・5.5時間
長方形とひし形・・・2.5時間
中点連結定理・・・・3時間(第2,3時は課題学習的に行った)
平行線と面積・・・・2時間
問 題・・・・・・・2時間

3.授業の概要
 <第1時>
課題提示
 適当に△ABCをかき,辺AB,ACの中点M,Nを結ぶと,MNとBCの関係はどうなっているのだろう。

 〔生徒の反応〕
見た感じや実測から,BCがMNのであることは,ほぼ全員が見つけていた。
MNBCに気がつかない生徒もいたが,「まだあるんだけどなあ」という発言があり,定規を使って確かめた。

中点連結定理
 △ABCの2辺AB,ACの中点をそれぞれM,Nとすると,
MNBC,MN=BC

 中点連結定理の説明とその証明(教科書p.134)は指導者が行った。生徒自身がこの証明をできるようにするというよりは,証明の方向性(平行四辺形になる条件と性質を用いること)がわかればよいと考えた。

課題提示(定理の利用)
 BCの中点をLとして,3つの中点M,N,Lを結ぶと,どんなことが発見できるだろう。

 
 中点連結定理が使えて,ML,LMはAC,ABと平行で長さが
 3辺の長さがそれぞれ等しくなるから,△MLNと残り3つの三角形は合同になる。結局,4つの三角形は合同になる。
 △ABCの面積は,小さい三角形の面積の4倍になっている。
 1組の向かい合う辺が,等しくて平行(2組の向かい合う辺が等しい。あるいは平行)だから,6つの平行四辺形ができる。
 平行四辺形の面積は小さい三角形の面積の2倍で,大きい三角形の面積の

 <第2時>
 
 今日は,中点連結定理を使って,四角形に潜む秘密を探ってみよう。

課題提示
 適当に四角形ABCDをかき,AB,BC,CD,DAの中点をそれぞれP,Q,R,Sとすると,4つの中点を結んでできる四角形PQRSはどんな四角形だろう。

 〔生徒の反応〕
かいた図を見て,平行四辺形になると判断したり,長さを測ったり,辺の関係を調べて判断したりしていた。生徒の中には,長方形,ひし形になるようだと考えている者もいた。
 見た感じは,平行四辺形に見える。
 僕のはひし形に近い。
 私のは,長方形のように見える。
 ひし形も長方形も平行四辺形の仲間だから,特別なときだけ,ひし形や長方形になると思う。
 それでは,中の四角形が必ず平行四辺形になることを証明してから,中の四角形がひし形や長方形になるのは,どんな場合か考えてみよう。
しばらく時間を与えてから,生徒に発表させた。「中点を結んでいるから,三角形の中点連結定理を使えばできそうだ」と言う生徒の発言を手がかりにして,生徒は考えていた。
 BDを結ぶと中点連結定理が使え,PSBD,PS=BD,QRBD,QR=BD
だから,PSQR,PS=QR よって,四角形PQRSは平行四辺形
PSQR,PQSRやPS=QR,PQ=SRを用いた考えも出された。
 中の四角形は必ず平行四辺形になることは確かめられたから,中にひし形や長方形ができる場合を考えてみよう。
外の四角形を長方形やひし形,正方形にして考えている生徒がほとんどであった。最初の課題で,中の四角形が長方形やひし形のような形になった生徒の中には,これら以外の場合でも,中の四角形が長方形やひし形になりそうだと考え始める者もいた。
 外の四角形が長方形のときは中の四角形はひし形で,外がひし形のときは中は長方形になる。
 外の四角形が正方形のときは,中の四角形も正方形
S1 僕が初めにかいた四角形は,どう見てもひし形に見えないけど,中の四角形は長方形に見える(板書)。
S2 私のは,中の四角形がひし形に見える。
S3 S1の図を見て思いついたんだけど,ひし形を下に伸ばしたようなときでも,中の四角形は長方形になると思う。
S4 先に長方形をかいて,外に四角形をかいたら,いっぱいかけるのと違う?
S3,S4の発言を各自確かめていた。

 <第3時>
 外の四角形がどんな四角形だと,中の四角形は長方形になるのだろう。

 〔生徒の反応〕
いくつかの図をながめたり,辺や角を測って調べたりしていたが,行き詰まっている生徒が多かった。そのようなとき,次のような考えが出された。
S5 対角線に関係があるのと違う?
 どうしてそう思ったの?
S5 何となく・・・。
S6 対角線が垂直に交わっている。
S3 僕の場合でもそうなっている。
S4 対角線が垂直に交わるような外の四角形をかけば,中の四角形は長方形になる。
S4の考えを各自確かめていた。
 外の四角形の対角線が垂直に交わっていると,中の四角形は長方形になりそうだけど,誰か証明できるかなあ。
S5  中の四角形は必ず平行四辺形になることはわかっているから,角が90になることをいえばいい。対角線と中の四角形の辺は平行だから,(同位角) ×(錯角)で× =90 だから,×=90 全部の角も90になる。

 外の四角形がどんな四角形だと,中の四角形はひし形になるのだろう。

 〔生徒の反応〕
 
 きっと,対角線に関係があると思う。
 今度は,長さと違う?
S6 中の四角形の辺は対角線の半分だから,対角線の長さが同じだと4つの辺が同じになるはずだ。
 対角線の長さが同じように外の四角形をかいて,また調べればいい。
各自調べていた。中には,S6の考えを使って証明している生徒もいた。
 誰か,証明してくれるかなあ。
S6  中の四角形の辺は対角線の半分だからで,○○●●は同じだからも同じ。
 だから,4つの辺が等しくなる。

 中の四角形が正方形になる場合について各自にまとめさせた後,中の四角形が長方形かひし形ならば,対角線の長さは等しいか,対角線は垂直に交わるか,について考えさせた。

4.おわりに
 本教材は教科書の問題を基にしたものであり,決して目新しいものではない。また,この授業は課題学習的に取り扱っているので,証明ができるかどうかというよりはむしろ,生徒が発見する過程に重点をおき,その過程の生徒の考えを大切にしたつもりである。
 本授業で取り扱った中点連結定理は,平行線と線分の比の特別な場合として,台形の中点連結定理として,また,その面積の公式との関係について,三角形の重心へと,今後学習する場面で広く活用できると考えている。


前へ 次へ

閉じる