享栄学園鈴鹿高等学校
佐野 哲也
新しい概念をどのように導入するかはその後の生徒の意欲を左右しかねない。しかし,力のモーメントの単元に関しては,指導要領に記載された期間が短いために実践報告が少なく,これまで導入の方法に苦慮してきた。
今回はとの授業内容を紹介する。問1,問2がの内容であり,を学んだ後にの内容である問3を用いる。
(写真1),(写真2)は(1)の実験で棒を伸ばす前と,伸ばした後の写真である。指が棒に接触しているのは,棒の上部と下部の2点であり,棒を伸ばした状態では,指への負担が増し,棒を支えることが難しくなる。ただ,(写真3)のように2点間の距離を長くすれば,棒を支えるのは容易になる。
(写真1)
(写真2)
(写真3)
右の(図1)〜(図3)は(写真1)〜(写真3)の状態において,それぞれ棒が受ける力を力の矢印で表したものである。
棒の重さを ,棒が手から下向きに受ける力を 1 ,棒が手から上向きに受ける力を 2 , 1の作用点から 2の作用点までの距離を , の作用点までの距離を とすると, 1の作用点を中心とする力のモーメントのつりあいより,
2 × = × ,
反時計回りの力のモーメント = 時計周りの力のモーメント
また,力のつりあいより,
2 = 1 +
上向きの力 = 下向きの力
以上の2式から,
このことより,棒が一様ならば,棒の長さがn倍になれば, 2 はn倍になることが分かる。
実験において,棒を伸ばす前には =25[cm],指 の間隔は = 1.0[cm] , = 0.130×9.8[ ]である。
これらの値を用いると, 2 = 3.25 ×9.8[ ],
1 = 3.12 × 9.8[ ]となり,指には約3 kgの重りと 同じくらい負担がかかる。(図1)
また,棒を伸ばしていき, ' = 50[cm]となったとき,負担はさらに増し, 2 = 6.37 × 98[ ] ,
1 = 6.5 × 9.8[ ] となる。このとき,指にかかる負 担は6.5kgにもなり,支えることが困難になる。(図2)
もし,棒の下を支える指を移動させ, ' = 3.0[cm]とすると, 2 = 2.17 ×9.8[ ], 1 = 2.04 × 9.8[ ]となり指への負担は軽減され,棒を容易に支えることができる。(図3)
新しい単元に入るとき,疑問から生徒に学ぶ動機が生まれ,最終的にそれが解決できるようなストーリー性のある授業展開にしたいと考えている。
今回の授業実践の中で,生徒は自ら積極的に考え,授業に意欲的に参加していた。生徒たちに好意的に受け止められたのは,提示された課題が彼らの常識を裏切り好奇心をかきたてるような,生徒たちにとって考えたくなるような問題だったからであろう。
これからも,生徒が自ら学びたくなる授業とはどんなものかということを常に念頭に置きならが,よりよい授業を目指していきたい。
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