第8回 啓林館「教育実践賞」について

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中国地方の火成岩類を用いた教材開発と実践

広島県広島市立古田中学校
荒谷 涼

1.はじめに

岩石の学習は中学校理科の中で扱われる内容の中で最も生徒の興味・関心が低いものの一つであると考えられる。そこには,岩石の学習が単なる暗記科目,岩石の名前やその特徴を覚えるだけの学習になりがちであるという問題点があげられる。また,授業の中で岩石標本や岩石プレパラートの観察といった実物観察の不足。たとえ,実物観察が十分に行われたとしても,生徒にとって理科室の棚の中に眠っている石ころであれば,岩石標本が野外の産状と結びつかず,岩石が身近なものとして感じられないものとなる。

そこで,教師自らが中国地方の分布する火成岩の路頭の産状をビデオに記録し,標本を採取したのち,その標本から岩石プレパラートを作ることによって,路頭の様子,岩石標本,岩石プレパラート関連づけた教材を作成し,実践を行った。

2.岩石標本と採取地


図1 岩石標本採取場所

次の6カ所で路頭のビデオ撮影・岩石標本の採取・プレパラートの作成を行った。

  1. 流紋岩 島根県雲南市八重滝(動画)
  2. 花崗岩 広島県呉市倉橋町(動画)
  3. 安山岩 島根県大田市三瓶山(動画)
  4. 閃緑岩 島根県雲南市吉田町(動画)
  5. 玄武岩 広島県世羅町(動画)
  6. はんれい岩 島根県雲南市吉田町(動画)

図2 路頭・岩石標本・顕微鏡での様子

3.単元

生きている地球

第1章 大地が火をふく

第2項 マグマからできた岩石を調べてみよう

4.実践の流れとねらい

はじめに,グランドの砂から鉱物を採取し鉱物の学習を行った。グランドの砂は生徒にとってもっとも身近なもので,グランドでの整列の際砂をいじったり,小石を投げて怒られたりという経験は誰しもあるものである。その砂こそが広島県南部に広く分布する花崗岩のなれの果てである。そこで,あらためて砂粒に目を向けさせ,風化の過程を実験により再現することで,花崗岩を作る造岩鉱物と同じ鉱物であることを気づかせ岩石の学習につなげるとともに,理科で習う岩石を生徒の身近なものとして捉えさせた。

つぎに,火山岩と深成岩の代表として花崗岩と安山岩の観察を行った。路頭のビデオを見せた後,その路頭の岩石標本とプレパラートを観察することで,野外での産状と岩石の肉眼・顕微鏡での様子を一つのものとしてとらえることができるようになる。岩石プレパラートは教材会社で安価に売られている偏光シートを小さくカットし,2枚のシートではさみ,顕微鏡の低倍率で観察した。この方法により,火山岩と深成岩の組織の違いが一目瞭然となる。また,啓林館教科書2分野上P59図5の実験を行い,マグマの冷え方と組織の違いを考察させた。

最後に,6種類の岩石標本とプレパラートを用意し,含まれる鉱物の割合を示した表をもとに岩石の名前をつける活動を行った。生徒はまず,プレパラート観察による組織の違いから火山岩と深成岩に分け,そこから,有色鉱物と無色鉱物の割合と岩石の色により岩石を判断していくことになる。従って,火成岩の組織ついて知識を活用した実践的な活動になるとともに,岩石が鉱物の種類や量によって変化していることを捉えることができる。

5.指導過程(ワークシート

内容 展開
1 鉱物について
  • グランドの砂から石英・長石・黒雲母を採取しワークシートに貼る。
  • 主要造岩鉱物の標本を提示する。
  • 鉱物についてまとめる。
2 岩石の風化と鉱物
  • 花崗岩のチップを加熱,急冷し岩石を風化の実験をする。
  • 実験から風化の仕方について考察し,風化についてまとめる。
  • 粉々になった花崗岩チップのくずとグランドの砂を構成する鉱物と比較させ,岩石が鉱物でできていることをおさえる。
3 火成岩の観察
  • 花崗岩と安山岩について路頭の様子をビデオムービーで見る。
  • 岩石標本・岩石プレパラートを観察し,スケッチをする。 (岩石プレパラートは二枚の偏光フィルターで挟み,顕微鏡低倍率で観察)
  • 火山岩と深成岩の組織についてまとめる。
4 マグマの冷え方と組織
  • 冷やし方を変えたミョウバンの結晶を作り,マグマの冷え方と組織の違いを考察する。(啓林館教科書2分野上P59図5)
5 火成岩の分類
  • 6種類の火成岩の標本とそれに対応した岩石プレパラートを,岩石の分類表をもとに,組織の様子・色・磁石への反応などから分類し,写真を貼ってまとめる。
    ・火山岩については,斑晶の色に注目させる。

6.実践の成果


図3 生徒のスケッチ

グランドの砂の鉱物の観察では,より多くの種類の鉱物を,より大きい鉱物を,というように熱心に採取しており,まるで宝探しをするかのような生徒の姿は印象的だった。また,岩石のなかの鉱物から砂の鉱物への風化の過程を実験でつなげることができたことで,岩石の学習への興味付けと岩石が身近なものであるという意識を持たせることができた。

火成岩の観察では,岩石プレパラートを偏光シートで観察したときには驚きの声がでていた。岩石標本と岩石プレパラートを同じ路頭の岩石であったため,普段おもしろみのない岩石標本を見る目が変わった。また,生徒のスケッチには斑状組織と等粒状組織の違いがしっかり表現されており,岩石の分類で火山岩と深成岩を区別することができたことからも,火成岩の組織の特徴をしっかりと理解させることができた。ただし,偏光シートでの色は,本来の岩石の色ではないため,その点は留意する必要があった。

火成岩の分類では,鉱物組成の表をもとに6種類の岩石に名前をつけることができており,岩石の色と含まれる鉱物の種類や量を関連づけて捉えさせることができた。



審査委員会から
審査委員会の講評

中国地方の火成岩類を用いた教材開発と実践

地域教材として,教師自ら中国地方に分布する岩石の路頭の産状をビデオに撮影し,標本を採取した後,その標本から岩石プレパラートを作ることによって,生徒には身近なものと感じる教材を作成された。理解させるためには関係するものを近くによせて比較することからはじまる。離れているものをビデオ撮影し,対応するプレパラートをあわせることにより,非常に効果的な授業が展開できている。