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防災・減災教育 防災・減災教育

平成28年度以降用 啓林館中学校理科教科書
未来志向の防災・減災教育 河田惠昭先生に聞く

河田惠昭先生(教科書の防災・減災に関する監修) 関西大学教授,阪神淡路大震災記念 人と防災未来センター長 河田惠昭先生(教科書の防災・減災に関する監修) 関西大学教授,阪神淡路大震災記念 人と防災未来センター長

東北地方太平洋沖地震後,学校現場では,どのように防災・減災教育を行ったらよいでしょうか? 東北地方太平洋沖地震後,学校現場では,どのように防災・減災教育を行ったらよいでしょうか?

イメージ画像:河田惠昭先生 防災を長年研究してきた立場として,その研究成果が,実際に社会で役に立たなければならないと強く感じています。そう考えますと,学校現場での防災・減災教育は,知識を覚えさせるのではなく,「命が助かるために,知ることによって知恵となるもの」を目指す必要があります。従来の教科の目的と防災・減災教育の目的は異なります。授業で災害の現場を経験した消防団の人から話を聞くような機会があってもよいと思います。
 例えば,大地震で多くの場所で火災が発生した場合,渋滞で消防車は現地にたどり着けません。一方,背丈までの火災は,消火器で消すことができます。また,座布団をかぶせたり,植木鉢を投げて土で覆ったりして,消火することもできます。第一発見者自らが,被害を小さくするよう努めなければなりません。そういった役に立つ知恵を身につけておき,防災訓練でエクササイズして確認しておくべきです。

教科書で扱った内容や事例から,中学生に何を学びとってほしいですか? 教科書で扱った内容や事例から,中学生に何を学びとってほしいですか?

 地震の波には2種類ある,というように理論のあるものは,しっかり学んでほしいです。科学技術の進歩によって,津波の伝わる速さは高い精度でわかり,日本列島の周りの海底地形は精密に計測されているので,津波が何分後に来るかは正確にわかります。3年本冊p.282の「速さのちがいを知る」のイラストでは,津波の速さを新幹線の速さと比較して感じとってほしいです。
 3年本冊p.240の「自助・共助・公助」について,自助と共助は必ずペアになるものです。共助で人を助けるために,まず自分がけがをしてはいけません。震災が起こる前は,自助・共助・公助は,1:2:7という意識がありました。国や自治体が災害への備えをしておくものと考えられていました。今の日本では,7:2:1が基本で,自分で備え,自分で身を守ることが必要になってきています。公助での「まちづくり」に関しても,それはもともと自分たちのことであるととらえないと,前には進みません。

東北地方太平洋沖地震後,学校現場では,どのように防災・減災教育を行ったらよいでしょうか? 東北地方太平洋沖地震後,学校現場では,どのように防災・減災教育を行ったらよいでしょうか?

イメージ画像:河田惠昭先生 東北地方太平洋沖地震では,小さな子どもの避難を助けたり,避難所で掃除当番をしたり,食事を配ったりなど,中学生がとても活躍しました。地域の高齢化が進むと,中学生も一緒になって防災・減災対策を行うという流れが定着していくと思います。
「ぼうさい甲子園※」をいう企画を10年行っています。南海トラフ地震が起こったときの被害を想定して,こういう「まちづくり」をしたらよいという「事前復興計画」を中学生がつくって市民に説明したところ,中学生に向けられる視線が変わったという例があります。市民と中学生の距離が縮まりました。このように,地域と中学生が一体になることが必要ですし,防災訓練,避難訓練も,地域と学校が一緒に行うべきです。
 中学生のみなさんは,知力・体力があって,自ら動くことができる世代です。そして,一人ひとりは社会とつながっていて,社会から期待されていることをわかっておいてほしいです。災害での避難行動1つをとっても,踏み出すのにはとても勇気がいります。防災・減災に限らず,勇気をもって新しいことに挑戦して,新しい時代を築きあげてほしいと願っています。

※主催:兵庫県,毎日新聞社,公益財団法人ひょうご震災記念
21世紀研究機構
(人と防災未来センター)