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授業実践記録(生物)

「カタラーゼの実験の定量化」
-電子てんびんを用いたカタラーゼの実験-

愛知県立武豊高等学校 松宮 誠

1.はじめに

実験には観察的手法を用いて現象の全体像を認識する定性実験と,現象の中から特定の部分を測定し数字で表現する定量実験がある。教科書に記載された観察,実験の多くは定性実験で,教科書の内容の確認であることが多い。また,仮説・方法・結果・考察が詳しく説明され,生徒が自分で創意工夫したり考察したりする場面が少ないのが現状である。

カタラーゼの実験はどの学校でも行われる定番実験の一つである。過酸化水素水の濃度,酵素(液)の量,pHや温度を変え,対照実験と比較し,酵素の特徴を確認する定性実験である。本研究ではカタラーゼの実験を定量化することによって,結果を表やグラフに整理し,関係性や法則性を示す探究活動に発展させることについて検討する。

2.カタラーゼの実験の定量化について

筆者はカタラーゼの実験の定量化を試み,平成6年度日本生物教育会全国大会三重大会で「パソコンと電子てんびんを用いたカタラーゼの実験」を発表した。電子てんびん上で実験を行い,酸素が発生することによって減少する質量の変化をパソコンに取り込み,グラフ化するという内容であった。例えば,3%HOが100mLあればHOが3g含まれており,約1.4gの酸素が発生する。

2HO(68)→2HO(36)+O(32)      ()内は質量比

酸素分子は25℃で平均400m/s以上の速さで拡散するため,見かけ上質量の減少が測定される。(実際は溶液が飛散するなどのため,減少量は理論値より増加)。減少した質量をグラフ化すると酵素の反応速度のグラフとなる。

3.「探究活動体験実験」としてのカタラーゼの実験

探究活動の流れ

  • ①テーマの設定
  • ②情報の収集
  • ③仮説の設定
  • ④観察,実験の計画
  • ⑤観察,実験による検証
  • ⑥実験データの分析・解釈
  • ⑦発表

探究活動とは探究の方法を習得するための学習活動である。単に観察や実験を行うだけではなく,生徒自身が探究の方法を体験し,習得する。その流れを右表にまとめた。このとき,①の「テーマ設定」を教員が提示した場合を探究活動,生徒が自由に設定すると課題研究となる。また,②の「情報の収集」~⑦の「発表」の活動をする際,⑥の「実験データの分析・解釈」を重視するのが読解力の育成,グループ活動で議論や⑦の「発表」を重視したのが言語活動の充実といえる。

実際に探究活動を行う場合,非常に手間と時間がかかり教員の負担も大きい。生徒にとっても同様である。

電子てんびんを用いたカタラーゼの実験は1回の実験が10分以下で終わり,結果を数値で表わすことができる。さらにグラフ化することによって関係性や法則性を示すことが簡易であり,探究活動を生徒に体験させる導入実験として優れていると考えられる。

4.カタラーゼと基質濃度との関係の実験

(1)実験計画

理系生物選択者10名を2つのグループに分け,3時間で実験を行った。電子てんびん(最大計量200g以上,最少表示0.1~0.01g)は2台,カタラーゼとしてドライイーストを用いた。

1時限目
ア 演示実験

  • ① 基質として3.5% HO60mLを200mLビーカーに入れておく。
  • ② 酵素液は顆粒のドライイースト0.5gを撹拌しながら水を加え10mLにし,50mLビーカーに入れておく。
  • ③ HO60mLが入った200mLビーカーに酵素液を流し込み電子てんびんに乗せ,10秒したら測定を開始する。
  • ④ 測定ははじめの3分間は10秒間隔で,3分以上は30秒間隔とし,2分間表示が同じ場合は反応終了とし,以降の質量は減少しないとした。

図1 反応直後

図2 反応30秒後
  • ⑤測定結果を表にまとめ,質量の減少量の平均をグラフ化する。最少表示が0.01gの場合,四捨五入し小数第2位まで求めるとした。

イ 生徒実験1

  • ① 練習として演示実験と同じ実験をそれぞれの班に2回実施させた。

2時限目

ア テーマ・実験計画の設定
反応速度の限定要因は何かについて生徒に検討する時間を与え,基質濃度と反応速度の関係についての実験計画を立てさせた。用意したHOが3.5%のみであったため,1.75% HOについて実験を行った。

イ 生徒実験
HOの濃度を1.75% HOにし,演示実験と同様の実験を3回実施した。

3時限目

ア レポートの作成
レポートとして実験結果をグラフ化し,結果について考察させた。さらに,酵素濃度や温度を変えた場合の実験結果について班毎に意見交換させ,予想されるグラフについて発表させた。

(2) 結果1

測定結果およびグラフは以下である。

表1 測定結果

H2O2濃度 3.5% 1.75%
体積 60mL 60mL
酵素 0.5g 0.5g
体積 10mL 10mL
回数 1回目 2回目 3回目 減少量
平均
1回目 2回目 3回目 減少量
平均
質量 質量 質量 質量 質量 質量
0 0 166.7 168.8 168.6 0 168.5 168.0 168.1 0
  10 166.6 168.8 168.5 0.1 168.5 167.9 168.1 0
  20 166.5 168.7 168.4 0.2 168.5 167.9 168.0 0.1
  30 166.4 168.5 168.4 0.3 168.4 167.9 168.0 0.1
  40 166.3 168.4 168.3 0.4 168.4 167.8 168.0 0.1
  50 166.2 168.3 168.2 0.5 168.4 167.8 167.9 0.2
1 0 166.2 168.3 168.2 0.5 168.3 167.8 167.9 0.2
  10 166.1 168.2 168.1 0.6 168.3 167.7 167.9 0.2
  20 166.0 168.1 168.0 0.7 168.3 167.7 167.9 0.2
  30 166.0 168.0 168.0 0.7 168.2 167.7 167.8 0.3
  40 165.9 168.0 167.9 0.8 168.2 167.7 167.8 0.3
  50 165.9 167.9 167.9 0.8 168.2 167.6 167.8 0.3
2 0 165.8 167.9 167.8 0.9 168.2 167.6 167.8 0.3
  10 165.8 167.9 167.7 0.9 168.1 167.6 167.8 0.4
  20 165.8 167.9 167.7 0.9 168.1 167.6 167.7 0.4
  30 165.7 167.8 167.7 1 168.1 167.6 167.7 0.4
  40 165.7 167.8 167.7 1 168.1 167.5 167.7 0.4
  50 165.7 167.8 167.6 1 168.1 167.5 167.7 0.4
3 0 165.7 167.8 167.5 1 168.1 167.5 167.7 0.4
  30 165.6 167.8 167.5 1.1 168.1 167.5 167.7 0.4
4 0 165.6 167.7 167.4 1.1 168.1 167.5 167.6 0.5
  30 165.6 167.7 167.4 1.1 168.1 167.5 167.5 0.5
5 0 165.5 167.7 167.4 1.2 168.1 167.5 167.5 0.5
  30 165.5 167.7 167.4 1.2 168.1 167.5 167.5 0.5
6 0 165.5 167.7 167.4 1.2 168.1 167.5 167.5 0.5
  30 165.5 167.7 167.4 1.2 168.1 167.5 167.5 0.5


グラフ1 基質濃度と反応速度

5.考察

1回の実験時間が短く,結果も明確であった。反応の様子とグラフとをイメージしやすいので温度やpHの変化と反応速度についての実験後の意見交換も活発であった。最適温度や最適pHに関連付けて,グラフの予想や,個人的に実験の継続を求める生徒もいた。このことから知的好奇心を高めるとともに,探究活動を経験させる導入実験として適当であると思われる。

グラフを見ると初期の段階から反応速度が異なっている。使用した酵素液の酵素にとって基質が飽和状態になっていないことによると考えられる。また,試薬としてカタラーゼを使用していない,電子天秤の最小表示に対して発生酸素量が少ない(誤差が大きい)ことから,厳密な定量実験とはいえない。しかし,実験結果を見ると,高校生レベルの実験としては十分定量化できたと思われる。

できるだけ短時間で反応させたいと考え,酵素液には動物の血液か肝臓片を使う予定でいたが,血液そのものや肝臓の臭いを極端に嫌う生徒がいるため,ドライイースト(酵母)を選んだ。顆粒で取り扱いが安易である。肝臓片ほどではないが,酵母独特のにおいはある。顆粒のままHOに加えても,泡の表面に乗り上げてしまうため,水を加え液状とした。濃度は200mLビーカーから泡が吹き出さないレベルで,なおかつ5分程度で反応が終わるように調整した。実際に,授業で実践する場合,温度の影響が大きいため予備実験は実施する必要がある。

電子てんびんは測定中に温度変化があると誤差が大きくなる。冬場に実験を行うときは最小表示が0.01gのものを使用しないと誤差が大きすぎてデータとして役に立たない可能性がある。授業では有効数字と誤差について取り扱っていない。実際に探究活動として行う場合は最小表示が0.01gのものを使用するか,誤差について検討すべきである。評価についてはここで取り上げないが,生徒の実態を踏まえ観点別に評価した。