小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
生活

「自分事」としてとらえる生活科の学習の実践

袖ケ浦市立蔵波小学校 佐藤 美沙

1.はじめに

本校は,千葉県袖ケ浦市の住宅地にある児童数1000人を超える大規模校である。袖ケ浦市は,東京湾に近く,都内へのアクセスもしやすい場所である。田畑が広がる自然の多い地域もあるが,本校がある地域は,住宅地と商業施設であふれている。

子どもたちの遊び場としては,公園があるが,草花があるというよりは,ただ砂が敷かれただけのものといった場所や少しだけ遊具があるという公園である。そのため,子どもたちが自然と触れあって遊ぶということは少ない。

そのような地域のため,自分の家が農家という児童は,ほぼおらず,野菜はスーパーマーケットで買うものだ。また校内にも畑はないため,農作業とは縁遠い。そこで,一人一鉢で野菜を育てることで「自分の野菜」という意識をもたせ,成長を楽しむと共に植物に親しみを感じてほしいと思ってこの単元を設定した。

2.単元について

(1)単元名 「大きくそだて わたしのやさい」

~伝えよう ぼく・わたしのミニトマト物語~

(2)単元目標

○栽培活動を通して,野菜が変化し成長していることや,それらが生命をもっていること,その大切に気付くとともに,自分が1年生の時よりも上手に植物の世話をできるようになったことに気付くことができる。

(知識及び技能の基礎)

○栽培活動を通して,それらが育つ場所,変化や成長の様子に関心をもって働きかけるとともに,植物に心を寄せ,より良い成長を願って世話の仕方を考えたり,工夫したり,振り返ったりし,それを素直に表現することができる。

(思考力,判断力,表現力等の基礎)

○野菜に心を寄せ,愛着をもって接するとともに,生命あるものとして継続的に世話をしようとしている。

(学びに向かう力,人間性等)

(3)本単元における評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度
① 野菜の成長に合った世話の仕方があることに気付き,生命を大切にしている。 ① 野菜の育つ場所,変化や成長の様子を予想したり調べたり,比べたりしながら関わっている。 ① 栽培方法を本で調べたり,人に聞いたりして,育てている野菜の状態や成長に合わせ,大切に世話をしようとしている。
② 育ててきた野菜の様子や収穫まで頑張ったことに対するやりがいに気づいている。 ② 栽培活動をしたことをもとに,見つけたり,比べたり,例えたりして,分かりやすい伝え方の工夫をしている。 ② 収穫の喜びや自分で野菜を育てることができた達成感を味わい,これからも植物と関わろうとしている。
③ 栽培活動を通して,自分の思いを他者に伝える方法を考えている。 ③ 栽培活動を通して,自分の思いを様々な方法で他者に発信しようとしている。

3.目標にせまるための手立て

①「なんでだろう?」困ったときにすぐに調べて解決できる環境を

世話をしていて,気になったことを気軽に調べたり,だれかに聞いて解決したりすることで,世話の仕方も変わり,必要感をもって植物と向き合えると考える。具体的には,「ミニトマト関連の本を一人一冊用意しておく。」「ミニトマトの先生にアドバイスをもらう。」など,児童の「何でだろう?」という疑問をいち早く解決し,よりよい世話ができるようにしたい。

②「トマスタグラム」で自分の思いを発信し,思いの共有をする。

成長の過程で観察カードを記していく。児童の思いが,他者にも一目でわかるよう色別のカードを用意しておく。本単元において,その用紙を「トマスタグラム」と呼ぶ。色分けについては,「困っていることがあるからアドバイスをもらいたい。(赤)」「新しい情報を得て,だれかに教えたい(黄)」「発見したことを伝えたい。(青)」としている。だれが,どんな思いをもっているのかを表出させる。カードの色を見て,互いに情報交換をすることで他者とのかかわり合いにつながるだろうと考える。

③多様な方法で思いの発信を~「ミニトマト物語」~

成長後,収穫できるミニトマト。名付けたトマトがどのように成長してきたか,どんなアクシデントに見舞われたか,どんな発見があったかなどを様々な方法で他者に伝える。発信のツールは,言葉や絵,劇化,新聞,紙芝居,音楽,ダンス,写真でのプレゼン等が考えられる。どのツールを選ぶかは,児童によって異なるが,学習のまとめとして,自分なりの物語になればよいとする。その際の思いの共有も,話し合ったり,トマスタグラムの活用もしたりして充実させたい。また,ミニトマト物語を完成させて終わりではなく,伝えたい人に見せたり,聞かせたりして,相手からの反応も返ってくる。そのやりとりをすることで,大きな達成感につながり,今後も多くの人とかかわりあっていこうとする意識が芽生えると考えている。

4.授業実践

(1)指導計画(25時間扱い 国語3時間 音楽2時間の合科)

○目標  ・学習内容(学習問題)

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○ミニトマトを植えて,名前をつけることができる。

・苗を植える際,土や根をほぐして優しく植えよう。

○諸感覚を使い,父母になったつもりで観察をすることができる。(1回目)

・諸感覚,お父さん,お母さんになったつもりでカードを書こう。

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○本を使って,ミニトマトってどんな野菜か調べ,メモができる。

・本で調べたことをカードにメモしておこう。

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○メモの仕方を考え,その方法を共有することができる。

・長い話のメモをとるとき,どのようなことに気をつけて書けばよいのだろうか

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○自分のトマトを観察し,先生に聞いてみたいことをまとめることができる。

・トマトの先生に質問したいことを整理しよう。

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○トマトの先生に質問をし,必要な内容をメモすることができる。

・トマトの先生に質問をしよう。


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○自分のトマトについて発信することができる。

・トマスタグラムを書いて,友達に思いを発信しよう。

○友達のトマスタグラムの色を見て,アドバイスをし合ったり,友達のカードを賞賛したりできる。

・友達のカードを見て,よいところや助言をする。

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○ミニトマトの成長について「短い言葉(詩)」で表現できる。

・詩の書き方を知り,オリジナルの詩を書く。

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○トマトの成長の動画を見て,効果音やオリジナルのリズムを作ることができる。

・自分の思いに合ったリズムを考えられる。

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○トマトが喜ぶ世話の仕方を考えることができる。

・ミニトマトがよろこぶおせわのしかたは,どんな方法があるのだろうか。

○作った詩やリズムをオクリンクで共有し,友達の思いを認め合うことができる。

・友達の思いを知り,承認することができる。

「ミニトマトの健康観察」をすることができる。
(時間外で毎日続ける。)

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○どのような方法で「ミニトマト物語」をつくるか考え,決定することができる。

・「ミニトマト物語」の作成に必要なツールを選ぶことができる。


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○友達と話し合いながら「ミニトマト物語」を作ることができる。

・グループで「ミニトマト物語」を話し合い,作成する。

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○グループで「ミニトマト物語」を練習したり,改良したりすることができる。

・自分たちの「ミニトマト物語」を練習・改良する。

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○完成した「ミニトマト物語発表会」を開くことができる。

・完成した「ミニトマト物語」をクラスの友達に発表する。

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○自信をもって「ミニトマト物語」の動画撮影をすることができる。

・「ミニトマト物語」の動画を撮影する。



○「ミニトマト物語」を家族や伝えたい人たちに見せる。

○6年生を送る会でクイズにして発表する。(3月)

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○活動を振り返ることができる。

・植物の成長とともに,自身の成長に気付く。

・他者に自分の思いを伝えたことに満足感を得る。

(2)本時の展開

過程・時配
(学習形態)
学習活動と内容 ○指導上の留意点(UDの視点も含む)
☆評価(方法) ◎個別の支援
資料
見いだす
5分
【全体】

1 これまでの世話の様子を振り返る。

○成長過程が意識できるよう,写真で成長の過程を確認させる。

写真等

2 トマトへの願いを確認する。

○どんなトマトにしたいですか。

・元気なトマト ・おいしいトマト

・あまいトマト ・病気に負けないトマト

○自分の目指すトマトを確認することで,今後も愛着をもって世話をする意思をもたせる。

○目指すトマトの状態が同じ児童で近くの席に座り,意見交換をしやすくする。

3 学習課題を知る。

ミニトマトがよろこぶおせわのしかたは,どんな方ほうがあるのだろうか。

4 トマトがよく育つに必要な3つの条件を確認する。

① 水やり(でも,あげすぎない)

② お日様の光をあびさせる。

③ わき芽や黄色い葉っぱををとる。

○早く終わったら,それ以外のお世話の仕方を考えましょう。

・支柱よりも茎が高くなってきたから,長いぼうを立てようかな。

・また肥料をあげたらいいのかな。

○トマトの先生から教わった3つの条件を知っていればよいのではなく,自分のトマトがそうなっているかどうかを相談し合うことを確認する。

○「〇〇から△△しよう。」となぜその世話をするのか根拠をもとに考えることを伝える。

○新たな世話の仕方を考えるために,本で調べてもよいことを伝える。

トマスタグラム
タブレット
自分のミニトマトの写真等
ペアで
取り組む
20分
【ペア】

5 ペアで3つの条件にあっているのか,見合って確認し合う。

・黄色い葉っぱが下の方にあるよ。栄養をあげる必要がないからとろう。

・ぼくは,甘くしたいから土が乾いてから水をあげることにするよ。

◎困っているペアには,そばに行き,条件に合っているか,どうしたらその条件に合う世話ができるのか一緒に考える。

○「黄色い葉をとろう。(△△しよう)」としか言っていない場合は,「どうしてそうするの?」と尋ねることで世話の根拠を意識させる。

タブレット
広げ深める
10分
【全体】

6 トマスタグラムを書き,オクリンクで,考えを共有をする。

・わたしが考えた方法と同じ人がいるな。

・その方法もあったのか。

・ぼくもやってみよう。

○世話の方法が考えられた児童から,トマスタグラムを書いて,オクリンクで提出させる。

☆「〇〇だから△△しよう。」という根拠をもとに世話の方法を考えられたか。

(発言・カード)

まとめあげる
10分
【全体】

7 ミニトマトが喜ぶお世話を発表する。

・栄養を届かせるために,わき芽をとる。

・甘いトマトにしたいから,水は,土が乾いたらあげます。

☆ミニトマトの成長に合った世話の仕方があることに気付けたか。

(発言・カード)

◎本の情報を新しく調べたり,トマトの先生から聞いたことを振り返ったりして,自分なりの作戦を考えたことを称賛する。

8 新たな作戦を共有する。

・折れた茎があったから,そこはまた土にさして植えておきます。

・肥料をあげてもっと大きく育てます。

・倒れそうな茎は,ゆるくしばるといいそうです。

○今日考えたことをこれからの世話に生かして成長を見守ろうと伝える。

5.成果と課題