小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

理科好きな児童を増やしたい
 ~表現活動と言語活動の充実を通して

都城市立志和池小学校 井上 浩樹

1.はじめに

TIMSS2023の結果から,「理科の勉強は楽しい」と考える小学生の割合は,国際平均より上回っているが減少している。中学生の割合は増加傾向だが,国際平均より下回っている。「理科は得意だ」と思う小・中学生の割合は減少している。このことは,学年が上がるに伴って,学習内容が難しくなっていくことや,十分理解することなく先に進んでしまうことなどが要因の一つと考えられる。そこで,言語活動の充実を図り,表現活動を継続すれば,理解ができ,理解が深まり,自分にもできると思う自己効力感が高まり,理科好きの児童が増えるのではないかと考える。

2.主体的に取り組むために

(1)実験器具類を自分で扱い,観察・実験は自分で行うことで,理科の楽しさを実感し,記憶にも残ると考える。特定の児童だけが観察・実験を行うのではなく,全員が班で同じ体験ができるようにしている。器具類の準備・片付けも,班で分担して一人一人が役割をもつようにしている。

(2)自分で考えた方法で,実験をしたり調べてまとめたりすると,最後まで意欲的に学習に取り組める。自己選択・自己決定できる場を単元の中で設定し,実践した。

ア 第6学年「生物どうしのつながり」での実践

「生物どうしは,空気や水を通してどのようにかかわり合っているのか。」という学習問題に対して,誰と(自分で,友だちと),どのように(紙,ノート,配付したスライド,自作したスライド)まとめるのかを,自己決定し,下のスプレッドシートに表した。

友だちとまとめたい場合は,主体的に取り組めるよう,最大4人までとして,協働したい友だちと自由に学習ができるようにした。学習場所は理科室に限定した。ICT活用に慣れている学年のため,タブレットを使ってスライドにまとめる児童が多いことを予想したが,予想に反して紙(プリント,ノート)にまとめたいと考えた児童が6割以上いた。右表の値は,友だちとまとめたいと考えた児童を含むため,人数ではなく組数となっている。

【一人で取り組む児童】

【仲間と共同編集する児童】

【仲間と紙にまとめる児童】

【自分で選んだ実験をする児童】

イ 第6学年「水よう液の性質」での実践

「炭酸水のあわの正体は何か。」という学習問題に対し,「火のついた線香,気体検知管,石灰水」で調べたいという解決方法が出た。この方法の中で,自分が実験したい方法を選び,結果を全体で共有した。

【学習後の振り返り】

3. 表現活動と言語活動の充実

(1)自分の考えを表現する

頭の中で考えたことを,挙手で立場を示したり,ノートに書いたりすることは,自分の理解を認識し,理解や思考の深まりだけでなく学び合いにも繋がる大事なことだと考える。

ア 予想を表現する

自分の考えをノートやタブレットに文字で書いたり,絵で表現したり,絵と言葉で表現したり,挙手により自分の立場を明示したりしている。

イ 考察・まとめは自分の言葉で表現する

自分で考える前に,誰かの言葉をそのまま書いたり,板書を写したりしても理解には繋がらないと考える。そこで,考察・まとめは自分の言葉で表現するようにしている。時間確保をして,自分で表現した後,学び合いに繋げている。ノートには感想を,タブレット振り返りには授業の感想も記入するようにして,友だちの考えを参考にできるようにしている。まとめは,全員分確認をして児童の理解の把握に活かしている。

ウ 理科新聞に表現

単元で学んだことを,絵や図,表,言葉などでA4のプリントに表現している(5・6年)。まず紙に表現する経験を積む ことで,より記憶に残り,今後デジタルでの表現もスムー ズにいくと考えている。年度初めに,新聞の作り方について説明を行い,年間を通じて作成している。教科書,ノート,復習プリント,タブレットを手がかりにしてまとめている。考えながらまとめることで,知識が整理され,理解の定着に繋がったり,事実を関連付けて考える力が高まったりするのではないかと考えている。年度当初は,多くの児童が作成に時間がかかるが,継続することで2学期・3学期になると,より少ない時間でポイントを押さえた新聞ができるようになる。自分で,成長を実感することにも繋がっている。作成した新聞は,廊下・階段に掲示することで,友だちの表現を参考にしたり,参観日に保護者の方に見ていただいたりしている。

【5年生の新聞例】

【6年生の新聞例】

本年度より,作成した新聞は,「Padlet」を活用して共有している。学年の友だちの新聞を,いつでも参考にして自分の表現に繋げられるようにしている。

(2)言語活動の充実を図る

授業中に,どれだけ伝えたり唱えたりして声を出すかが,学習内容を定着することに繋がる要因の一つと考えている。そこで,一人で,ペアで,班で,全体でと,声を出す場を分けている。

ア 自分で唱える

学習問題を立てノートに書いた後や,予想を立てた後,新しい理科用語を学習したとき,まとめを書いた後等に,各自が自分に聞こえる声でつぶやくようにしている。

イ 学び合いをする

どんな予想を立てたかや,解決方法は妥当か,結果から考察したこと,どんなまとめにしたか等,ペアや班で考えを伝えたり,考えを深めたりしている。学び合いの後は,ノートに自分では気付いていなかったことをメモしたり,書いたことの修正をしたりしている。

ウ 発表をする

(ア)1時間の中で,できるだけ全員に発言の機会をつくりたいと考えている。そこで,つぶやきを拾って意図的に指名をしたり,班で決めた番号の児童に班の考えを発表させたりしている。難しくて分からないこともあるため,分からなかったと伝えられたことを全員で認めるようにしている。

(イ)自分でまとめたことの発表
第6学年「生物どうしのつながり」で,自分で選んだ方法でまとめた後は,ポスターセッション方式で発表を行った。2名以上でまとめた班は,発表順を決めることで全員が発表者・聴衆者になるようにした。いろんな友だちの発表を聞き,発表後に感想を交流することで,学びが深まったのではないかと考える。

【紙で発表する児童】

【ノートで発表する児童】

【タブレットで発表する児童】

本時学習後,児童は次のようなまとめや感想を書いていた。

○(まとめ)生物どうしは,空気や水を通して周りの環境と関わり合いながら生きている。

(感 想)ちょっと難しかったけれど生物どうしは,空気や水とどのようにして関わっているのかが分かったので良かったです。

○(まとめ)生物どうしは,空気や水を通して,周りの環境と助け合いながら関わり合っている。

(感 想)今までに習ったことを使って,空気と水を通した生物のつながりをまとめたから,自分の覚えていることを自分で再確認できてよかったです。

○僕はこの発表をして,結局生物は水や空気を通して周りの環境と関わっているということを改めて実感しました。生物どうしは,空気や水と常に関わり合っていて森林があるから僕達は呼吸ができるし水も飲めるから森林は無くなったらと思ったら不安になった。

○今回は,植物と動物が,水と空気を通してどのように関わっているのかを調べました。前に出ていた学習内容を使って,解きました。まるで,理科の一学期を振り返っているようで,楽しかったです。

○(まとめ)生物どうしは,空気や水を通して,周りの環境と関わり合いながら生きている。

(感 想)今までに習ったことを使って,友達と一緒にまとめられたし,自分たちでは調べきれなかった情報も知れたから,良かったです。

○(まとめ)生物どうしは,空気や水を通して,周りの環境と関わり合いながら生きており,生きていくには欠かせない。

(感 想)仲間と協力し,いろいろな人に説明でき,いろいろな人から説明してもらい,とても勉強になりました。

○(まとめ)生物どうしは空気や水をとおして酸素や二酸化炭素は植物や動物の体を出たり入ったりして関わり合っている。

(感 想)分からないところも友達に聞きながらできたから,安心して発表ができた。

○(まとめ)生物どうしも植物も空気と水がないと生きられない。生物どうしも植物も周りの環境と大きく関わり合っている。

(感 想)3人でやったからやりやすかった。交代でやっていたから,一チーム一チームの感想が分かったから良かった。

○(まとめ)生物どうしは,空気や水を通して生きるために必要。生き物どうしは,周りの環境と関わり合って生きている。

(感 想)今日の授業では紙に一人でまとめたりしてみんなに発表して自分も勉強になったのでいいと思いました。次もこのような授業があったら,分かりやすく簡単にまとめ,時間内に終わらせられるといいなと思いました。

エ ゲームで唱える

(ア)理科用語説明ゲーム

新しく学習した言葉を,何度も唱えることで定着が図られると考える。ペアで,何回か確認したら座るようにしている。例えば第5学年「花から実へ」では,「受粉」を学習する。「花粉がめしべの先につくことを何と言いますか」「受粉とは何ですか」のように,言葉を問う問題と,意味を問う問題をセットにしてペア活動をするようにしている。

(イ)キーワードゲーム

単元で新しく学習した言葉や,使った器具類をもとに,ペアや班でゲームを行う。何度も自分が唱えたり,友だちが唱えるのを聞いたりする中で,理科用語が定着するのではないかと考える。

オ 班ごとの復習

理解度を見取り定着を図るために,単元末に班ごとに基本問題を出題している。大型TVを活用し,問題を映し,声に出したり指を指したり,間違ったところを繰り返したりしている。他の班は,教科書のたしかめようの問題を解いたり,新聞を作ったりして,空白の時間ができないようにしている。

4. 学習を見返せる

欠席した時に進んだ授業を確認したい時や,新聞作り,テスト前復習等で活用できるよう,スライドに全時間の板書をまとめてGoogle Classroomクラスルームに配信している。欠席した児童へは,休み時間に個別指導を行ったり,授業冒頭に全体でおさらいをする等して,できるだけスムーズに授業に入れるようにしている。

5. 終わりに

考えたことをノートに書いたり,班の友だちに伝えたりできる児童が増えてきた。また,各クラスの単元テスト平均正答率が高くなってきた。本年度実施された全国学力・学習状況調査児童質問調査結果において,「理科の授業は好きですか」に「当てはまる,どちらかといえば当てはまる」と答えた児童は約91%,「理科の授業の内容はよく分かりますか」に「当てはまる,どちらかといえば当てはまる」と答えた児童は約98%だった。このことから,ある程度の学習内容の定着が図れていると考える。しかし,まだ理解できていない児童もいるため,発問を精選してより分かりやすい授業を展開したり,定着の確認を単元途中に行ったり,言語活動をさらに充実させたりして,どの子にも分かりやすい理科の授業を目指したい。そうして,「なんだか理科が面白いな」,「好きになったかも」,「自分にもできる」という児童が一人でも増えるようにしたい。

【参考文献】