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理科

子どもの学習意欲「やってみたい」のある理科授業
~4年「もののあたたまり方」の授業を通して~

長岡京市立長岡第四小学校 川口 順平

1.はじめに

理科の授業において,子どもが「やってみたい!」と感じることは,主体的な学びにつながる重要な要素である。特に,問題解決型の授業では,子ども自身が課題を見つけ,試行錯誤しながら解決していく過程が大切になる。しかし,単に課題を提示するだけでは,子どもの興味や意欲は持続しにくいのが現状である。
そこで,「どこに『やってみたい』があるのか」を想定し,それを引き出す仕掛けを意識した授業づくりのポイントを紹介する。理科の学習において子どもが主体的に取り組めるよう,問題解決のプロセスを工夫し,学びへの意欲を高める方法を考察する。

2.「やってみたい」のある理科学習について

児童はどのようなときに「やってみたい」と思うのか。以下の三つの場面を想定する。

【①「やってみたい」と思える事物・現象を提示する】
自分の認識とのズレや,前時の内容とのズレを感じるとき,児童は「ふしぎ?」「あれっ?」「どうして?」と疑問を抱く。このような事例を提示し,自然の事物や現象とのかかわりを楽しむ活動を準備する。

【②「やってみたい」と思える再挑戦の場を与える】
実験を行っても「うまくいかない」ことはよくある。結果を単に失敗とするのではなく「なんとか成功させたい」という思いを高め,「どうすればいい?」「どんな実験をしたい?」と切り返すことで,新たなアイデアが生まれ,工夫や改善への意欲が高まる。

【③「やってみたい」と思える他の場面を提供する】
モノづくりや生活の場面へ転換したり,パフォーマンス課題を設けたりすることで,きまりや規則性の理解が一層深まる。さらに,理科を学ぶ意義や有用性を実感する機会にもつながる。

3.授業の実践 ~第4学年「もののあたたまり方」を通して~

【目標】

【評価基準】

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度
  • 金属は熱せられた部分から順に温まるが,水や空気は熱せられた部分が移動して全体が温まることを理解している。
  • 金属,水及び空気の性質について,実験の目的に応じて,器具や機器などを正しく扱いながら調べ,それらの過程や得られた結果を分かりやすく記録している。
  • 金属,水及び空気の性質について,既習内容や生活経験を基に,問題を見出し表現するなどして問題解決している。
  • 金属,水及び空気の性質について追究する中で,既習の内容や生活経験を基に,金属,水及び空気の熱の伝わり方について,根拠ある予想や仮説を発想し,表現している。
  • 金属,水及び空気の性質についての事物・現象に進んで関わり,他者と関わりながら問題解決しようとしている。
  • 「もののあたたまり方」で学んだことを学習や生活に生かそうとしている。

【指導計画】

授業の流れ 主な学習内容
単元導入
1時間
もののあたたまり方について問題作り
学びの計画づくり
第1次
2時間
金属のあたたまり方
金属はどのようにあたたまっていくのだろうか。
第2次
1時間
空気のあたたまり方
空気はどのようにあたたまっていくのだろうか。
第3次
2時間(本時)
水のあたたまり方
水はどのようにあたたまっていくのか。どのようにあたたまるのか。
第4次
1時間
学びを深めよう
生活の場面でどんなところで使われているのか。

単元の授業の流れを「金属→空気→水」の順に変更した。予想場面において,水(液体)が金属(固体)と空気(気体)のどちらにも似た性質を持つことを実感し,「水(液体)はどちらに似ているのか?」と既習内容をもとに考えさせることができると考えた。

4.授業の実践 ~本時(6時間目)における「やってみたい」の仕掛け~

【①「やってみたい」と思える事物・現象を提示する】(導入場面)

  • 仕掛け1「電子レンジで温めたお湯」(生活とのつながり)
    生活の場面を想起させることで,「やってみたい」という気持ちを引き出す。例えば,温めた瞬間は熱く感じたのに,混ぜるとぬるくなった経験を想起させることで,「水を温めると,どこから温まるのか?」という問いにつなげる。

  • 仕掛け2「金属,空気,水について知っていることをまとめた表」(既習とのつながり)
    単元を通して学んできた内容が活用できるよう,児童が分かったことを表に書き込む。本時が「最後のピース」となり,これまでの学習の集大成として位置づける。

◯指導のポイント

【②「やってみたい」と思える再挑戦の場を与える】(結果~考察場面)

  • サーモインクを入れた試験管の真ん中を温める実験を行う。
  • →グループごとにタブレットで結果を共有すると,「熱したところから温まる」 と考える児童と,「ピンクが集まる上層が温まる」 と考える児童に分かれ結果のズレが生じる。

このような曖昧さが,次の「やってみたい」につながる。ある程度意見を出し合ったところで,
教師:「どうしたい?」
児童:「はっきりさせたい!もう一回実験したい!」
教師:「結果をはっきりさせるために,試験管のどこをどのように熱すればいい?」
児童:(考えを深めながら,再実験の方法を選ぶ)

◯指導のポイント

  • 再実験の自由度を適度に調整する。(今回は熱する場所の変更を考える)
  • 再実験グループを適切に編成することで,自分の考えを実証させる。
  • 「頑張ったけど,もうちょっと…」という不満足感を大切にする。
  • もう一歩で納得できない感覚が,次の学習意欲につながる。

【③「やってみたい」と思える他の場面を提供する】(まとめ~ふりかえり場面)

◯指導のポイント

5.「やりたくない」を「やってみたい」に変えるには

【どんな時に「やりたくない」と感じるのかを考える】

「やってみたい」は「やりたくない」という気持ちと表裏一体だと考える。元気よく挙手していた児童が指名されずに意欲をなくし,机に突っ伏してしまう場面や,問題が分からずに投げ出しかけていた児童が,ふとした瞬間に鉛筆を走らせる場面に遭遇することがある。どちらにも共通するのは,学習への動機は常に変動するものだということ。すべての児童が同じように感じるわけではないが,「やりたくない」と感じる状況を想定し,適切な「仕掛け」を準備することが重要である。

○内容がわからず「やりたくない」と考える児童への仕掛け

○実験(観察)を「やりたくない」と考える児童への仕掛け

6.おわりに

児童が「やってみたい」と思える理科学習を実現するためには,事物・現象の提示,再挑戦の機会の提供,別の文脈での活用が重要である。一方で,「やりたくない」と感じる要因を把握し,適切な「仕掛け」を準備することも欠かせない。学習意欲は常に変動するが,児童が安心して試行錯誤できる環境を整えることで,主体的な問題解決へと繋がる。
今後も「やってみたい」のある授業づくりを追究していきたい。