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算数

深い学びを成立させる -「採点学習」を取り入れた算数授業-【第2回】

三豊市算歩会S

1.はじめに

小学校学習指導要領では,児童が「主体的に学習に向かう力」を育成することが,重要な柱の1つとして示されている。とりわけ算数科においては,児童が自分の考えと他者の考えを比較・吟味し,論理的に思考し表現する力の育成が重視されている。

全国学力学習状況調査の質問紙調査で,「課題の解決に向けて,自分で考え,自分から取り組んでいましたか」という質問に対し,肯定的な回答(「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」)をした香川県児童の割合は全国平均を過去4年間連続で下回っている。

この課題に対し,私は授業を大きく変える必要性があると考える。しかしながら,現実には標準的な授業形態をベースにした部分的な改善にとどまり,大きな変革の波は起こっていない。児童が教師から一方的に正解を受け取る受動的・表面的な学習が主流となっているように感じる。自分が担任してきた学級の児童も,「友達や先生から正解が出てくるのを待っていれば時間が過ぎる」「答えが合っていれば満足」「説明をするのは苦手」「ノートに黒板を写すだけで良い」といった傾向が顕著に見られた。自分で考えを見つけたい,理由を含め内容を深く理解したい等という意識が乏しいと感じている。

私は4年前から「算歩会さんぽかいS」に所属している。この会は,本気で算数科の授業改善に取り組む6校8名と,県算数会長・校長職経験の定年退職者1名,東京大学の研究所で学習科学について研究した後,三豊市に移住した異色の経歴を持つ者を含め10名のメンバーで構成された自主研修グループであり,毎月1回5時間程度開催している。前述した課題に対して,算数科の本質に迫る深い学びの成立に視点を当て,理論と実践の評価を繰り返しながら協議を進めた。そして3年がかりで新たな指導法としての「採点学習」を生み出した。

本研究では,この採点学習をベースとして,深い学びの成立を児童の論理的な思考と発言の質に求め,算数科の授業における児童の主体的な学びの育成と,それを支える教師の授業改善の視点について提案する。

2.採点学習について

採点学習とは,下図のように「採点学習の問い」に対し,教師が提示した原則3つの「採点解答(価値ある誤答も含ませる)」を児童が教師のように採点し,その採点結果と根拠をグループで持ち寄って議論しながら,児童自身の力で学びの目標に迫る学習方法である。

【採点学習の流れ(算数の時間が10倍深まる「採点学習」より)】

採点解答は,3点満点とし,それぞれの解答に対して採点する。点数を付ける(数値化)ということは,その解答に対する明確な根拠が必要となってくるため,消去法により1つだけを選ぶことと大きく異なる。また,数値によって自分と他者の考えの異同が一目で判断できるため,異なる考えに関心を持ち,それを評価しながら自分の考えを見直すという過程を経験することもできる。さらに,3点と採点した根拠を述べる際には,2点の採点解答と比較した,より簡潔・明瞭・的確な表現・処理方法の追求(本質に触れる話し合い)となる。そこでは,「もし~だったら(で,なかったら)」と,最初に提示された問題場面の数値や形等を主体的に変えて考えてみたり他の場面で活用してみたりする活動が生まれ,1事例だけで結論付けない,より責任感・より納得感のある3点となる。

また,採点学習ではあらかじめ複数の解を提示することにより,1つの解を全員で見つける決定問題から,深い納得を求め,協働的に論理を働かせる証明問題へと変換される。これまでの一斉学習型(決定問題)の授業では,個人内解決の場面で自分の考えをもてない児童にとっては苦痛の時間となっていた。しかし,選択できる解答(見通し)があるという安心感から,どのような児童も45分間熱中した「主体的に学習に向かう力」が育成されると考える。

加えて,採点学習を取り入れた価値は児童の変容にとどまらず,教師自身にとっても「本教材の本質は何か」「採点解答の何をよしとするか」「どこに学びの価値を置くか」といった指導観を再確認する契機となる。

本実践は,『算数の時間が10倍深まる採点学習』(啓林館)に掲載された実践事例や理論をもとに,本研究の対象となる児童の実態や学年の指導内容に合わせて再構成したものである。

3.研究の実際について

第5学年「整数」を例に授業実践を紹介する。本単元計画は以下のとおりである。

学習内容
・偶数と奇数の意味
・倍数の意味
・公倍数の意味と最小公倍数
・公倍数の見つけ方
・公倍数を使った問題
・約数の意味
・公約数の意味と最大公約数
・公約数の見つけ方
・公約数を使った問題
10 ・まとめ,ふり返り

このうち,第1時,第4時,第8時において採点学習を取り入れたが,ここでは主に第1時―偶数と奇数の意味―について紹介する。

(1)導入

採点学習の問いに出合わせる前の活動を導入として大事に考えている。本時では,整数を2つに分ける学習内容のため,その方向にある日常のものを分ける活動を位置付けた。

児童は,人間を右利きと左利きに,カレンダーを平日と休日に,昆虫をオスとメスに分ける等,日常の多くのものが2つに分類できることに気付くことができた。そしてこの活動が,本時の中心となる採点学習の問い(整数も2つに分けることができるのかな?)へのアプローチとなった。日常と教材とをつなぐこと,意識の流れをつなぐことは重要である。

(2)展開

採点学習の問いを「1~20までの20種の整数をどのように2つに分ければいいのだろうか?」と設定し,次の3つの採点解答を提示した。

児童は,3種の採点解答の内容を正しく解釈した後,それぞれを採点し,その理由を整理していった。

【児童のワークシートの採点例】

個人の採点結果を明確にした後,ワークシートを基にグループ交流へと進み,採点の共有化を図った。
以下,児童の反応の一部を紹介する。

そらさんの考えだと,もし,100までの数を
分けるとなると,3つに分けることになるよ。
テオさんやりこさんの考えなら,100をこえ
ても分けられそうだ。
テオさんとりこさんはどちらが3点になるのだ
ろう。

最初の問いで与えられた20までの整数を拡張しながら採点の根拠を探り始めた。そしてその後,全体交流・採点決定へと進めていった。

【グループでの採点一覧】

児童から出てきた意見を教師がコーディネートし,採点の根拠の納得化を図っていく。以下,その主な教師の発問及び児童の反応をT・Sで紹介する。

以上のようなやり取りを通じて,2でわり切れる整数を偶数,2でわり切れない整数を奇数という用語があることを教え,偶数,奇数の意味理解につなげた。

(3)活用

採点学習の問いを解決した後に,その考え方を活用した活動も大事に考えている。本時では以下2つの活動を設定した。

以上,第1時ついて様相を示したが,第4時,第8時についても簡単に触れておく。

第4時では公倍数の見つけ方について,第8時では公約数の見つけ方について,第1時と同様な流れの採点学習を行った。

公倍数の見つけ方では,2数の積をとって,簡単に公倍数を見つけることができるが,その数が最小公倍数とは限らないので,誤答になってしまうということがしばしば見られる。採点解答の中に,そのような考え方も含むことで,片方の倍数から見つける考えと比較することができ,どちらの考え方が合理的か(児童の表現では,「算数のせ・か・い」-よりいかくに,よりんたんに,つでも使えるか-)を吟味することができた。

また,公約数の見つけ方でも同様で,すべての約数を書きださなくても,どちらかの約数から見つける方が簡単であることに気付くことができた。

一斉学習型の授業では,算数を苦手とする児童は,個人内解決の場面から全体交流の場面においての長い時間,ねらいから遠ざかった(最後には切り捨てられる考え方)状況に置かれがちである。しかし,採点学習を取り入れたことで,公倍数・公約数を見つけるための技能の獲得だけでなく,採点の根拠を述べたり他の数値に置き換えて考えたりするなど,本時のねらいに触れる時間を多く過ごし,思考力を高め,理解を深めることができた。

4.アンケート結果より

本学級で採点学習が定着し始めた頃,児童に採点学習についてのアンケート調査を行った。

児童の採点学習に対する印象は,大変肯定的であった。これまで算数が嫌いと回答していた児童も授業が楽しかったと回答するなど顕著に変化が見られた。文章を書くことや他者に説明することを苦手としている児童にとっても,採点の根拠を観点をしぼって記号で表すこととなるため,誰もが取り組みやすいものになってきたと捉えている。

【採点の根拠を記号化した児童のワークシート】

採点学習の最大の特徴は,対話を通して学びを深めていくことである。解き方の説明ではなく,友達に納得してもらうような理由を考えたり,話し合ってもなお解決できない疑問を見出したりするなど,形式的な学びではなく,算数の本質に触れる学びとなっていた。

また,採点学習を積み重ねていく中で,「自分の考えを伝えたい」「友達の考えを聞きたい」という思いを高めることができた。一斉学習型の授業を行ったときには,発言する児童が固定化されたり,表面的な発表会のようになったりしていたが,採点学習のグループでの交流時には,自分の意見を積極的に伝えたり,友達の意見を真剣に聞いたりしている姿が見られた。

【グループで交流している様子】

5.研究の成果と今後の課題

<成果>

<課題>

6.おわりに

これまで,「主体的で対話的な深い学び」をめざして,単元構成を考えたり,発問や手立ての工夫を考えたりしてきたが,これらは部分的な改善に過ぎなかった。しかし,新たな指導法「採点学習」にチャレンジした結果,児童の学習態度や発言量・質の向上につながった。溢れる情報の中での生活を余儀なくされる今の子どもたち。採点学習は,その情報の一つ一つを鵜呑みにせず,何がより正しいのかを判断しようとする習慣やプレゼン力の育成につながるものと信じている。

近年,教員相互の自主的な授業参観や本音で協議する場が減少した。折々に外部からの指導者も招いて開催している「算歩会S」は,私にとって貴重な学びの時間であり,互いに刺激を与え合える場となっている。

【参考文献】