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英語

「自己調整能力を高め,協働して学ぶ力を育む子供の育成」

岡山大学附属小学校 吉平 万里子

1.はじめに

小学校における外国語活動と外国語科の実践において,社会で求められる資質・能力の育成を目指すためには,以下のような視点から指導が求められると考える。①コミュニケーション能力の育成,②自己調整能力の育成,③協働力の育成,④デジタルリテラシーの育成,⑤創造力の育成,⑥社会的・情緒的スキルの育成,⑦国際的視野の深化である。
ここで述べた6つの指導を具体的に記す。

① コミュニケーション能力の育成
  • 実生活を想定した実践的な会話練習を通じて,英語を使って相手と意思疎通を図る力を養う。
  • 英語を通じて他者の意見や考え方を尊重し,多様性を受け入れる姿勢を育む。
② 自己調整能力の育成
  • 学習の初めに自分で目標(my goal)を設定し,学び終わった後に達成度を振り返る時間を設ける。
  • 学習過程で自分の強みや改善点を自ら見つけ,次にどうすればより良い成果が得られるかを考える。
③ 協働力の育成
  • 英語を使ったグループ活動やペアワークを通じて,他者と協力し,意見を交換する力を育む。
  • グループ内で互いにフィードバックし合い,協力して学びを深める。
④ デジタルリテラシーの育成
  • オンライン辞書,英語学習アプリ,動画教材など,デジタルツールを活用して,英語を楽しみながら学べる環境を提供。
  • インターネットを活用し,世界中の情報や文化に触れ,英語を使って異文化理解を深める。
⑤ 創造力の育成
  • 自分の考えや物語を英語で表現する活動を通じて,創造的な思考を促す。
⑥ 社会的・情緒的スキルの育成
  • 英語を使って自分の気持ちを表現したり,他者の気持ちを理解したりする活動を通じて,感情認識力を高める。
  • 他者の立場に立って考え,英語を使ってその考えを共有することで,共感力を養う。
⑦ 国際的視野の深化
  • 英語を学ぶことで,日本以外の文化や習慣について学び,異文化に対する理解を深める。
  • 可能であれば,外国の小学校とオンラインで交流を行い,実際に英語を使って異文化理解を深める。

そこで,これらの視点を取り入れた指導を行うことで,子供たちが自己調整能力を高め,協働して学ぶ力を身につけ,グローバルな環境でも活躍できるような題材や活動を工夫して設定することで,子供たちが思いや願いをもって言語活動に取り組むことができると考えている。

2.実践例

今回は,『Blue Sky elementary 5 Unit 6』の実践から,目指す子供の姿に迫るための指導の工夫を紹介する。本単元は,レストランなどの飲食店での食事の注文に関する表現を学ぶことを通じて,コミュニケーション能力を高め,さらに異文化理解や国際的な視野を広げることが目指されている。
導入時,子供たちは教科書のIntroduction(p.66)とWatch the Scene(p.67)から,世界の様々な料理を知った。また,ALTが授業ごとに様々な国の料理を以下のような英語表現で子供たちに紹介をした。

【Japan】
こんにちは (Konnichiwa)
This is sushi. It is a Japanese dish. It is very fresh and delicious. It is made with fish and rice. You can enjoy a sushi meal for around 2,000 yen.

【Canada】
Hello!
This is poutine. It is a Canadian dish. It is made of fries topped with cheese and gravy. You can buy poutine for around 5 Canadian dollars.

【Italy】
Ciao!
This is risotto. It is an Italian dish. Risotto is a creamy rice dish. It is cooked slowly with broth and usually mixed with cheese, mushrooms, or seafood. You can enjoy risotto for about 12 euros.

このように,ALTが世界の様々な料理を紹介すると,子供たちから「自分が紹介したい料理を,相手の人が食べたいと思うように,工夫して伝えることをmain goal」にしたいという意見が出た。この目標を達成するために,子供たちと共に学習活動を考え,具体的な見通しを持って取り組むことができるようにした。
授業の2時間目からは,子供たちは自分が伝えたい表現を一人一台の端末を活用して調べたり,教師に尋ねたりすることで必要な言葉やフレーズを獲得した。また,友達やALT,JLTとの関わりを通じて,伝え方を工夫し,紹介の精度を高めていった。
毎時間の振り返りの時間では,どのように伝え方を改善したのかを記録することで,子供たちがどの時点でも自分の改善点を振り返ることができるようにした。また,ペアやグループで協力し,自分の目標を達成するためにアドバイスし合ったり,伝え方を見合ったりする場を設けることで,互いに伝え方をより良くしようとする意識を高めた。このように,友達やALT,JLTとの積極的な関わりを通じて,英語を使う場面を設定することで,子供たちは他者と協力しながら,自分が納得する伝え方を試行錯誤する姿が見られた。

【Unit 6 I'd like pizza.の実践】

学習活動(〇) 子供の思考(・)
1
  • 教科書のIntroduction(p.66)とWatch the Scene(p.67)から,世界の様々な料理を知る。
  • [①コミュニケーション能力の育成]
  • ALTが紹介する世界の料理を聞き,自分がおすすめする料理の伝え方を考える。
  • [⑤創造力の育成]
  • 本単元のmain goalを考える。
  • 紹介の際に,その国のあいさつをしたい。
  • 料理の味も伝えたい。
  • その料理の値段を,現地の通貨と日本円で伝えたい。
  • main goalは,「自分が紹介したい料理を,相手の人が食べたいと思うように,工夫して伝えよう」にしよう。
2
  • ALTが紹介する世界の料理を聞く。
  • 教師との発話練習や一人一台端末を使用しながら,言語材料を知り,自分が伝えたい表現を知る。
  • [④デジタルリテラシーの育成]
  • (写真①)
  • 友達が「食べたい」と思うように,スピーチを工夫する。
  • [⑤創造力の育成]
  • 自分が工夫しようと思う点を友達と共有する。
  • [②自己調整能力の育成][③協働力の育成]
  • 食べ物の味を伝える際に,andを使用して詳しく伝えよう。
  • 現地の通貨と日本円の価値が少し違うな。このことも友達に伝えたい。
  • その食べ物に使われている材料を伝えたい。一人一台端末を使用して調べよう。
3
  • ALTが紹介する世界の料理を聞く。
  • 慣れ親しんでいる日本食を取り上げ,学級全体でどのように,スピーチを工夫するか話し合う。
  • [①コミュニケーション能力の育成][③協働力の育成]
  • 友達が工夫している点を知り,自分のスピーチをよりよくする。
  • [② 自己調整能力の育成][⑤創造力の育成]
  • (写真②)
  • 英語と現地の言葉で数を伝えてみたい。
  • おにぎりの具材を写真とともに詳しく伝えると分かりやすいな。
  • 友達は,相手に質問をしていたな。
  • 相手に感想を聞いたり,食べてみたいか尋ねたりしてみよう。
4
  • ALTやJLTの前でスピーチをし,よりよくする。
  • [①コミュニケーション能力の育成][②自己調整能力の育成]
  • 一人一台端末を活用し,発話の仕方を確認する。
  • [④デジタルリテラシーの育成]
  • 自分がおすすめの料理をスライドにまとめるために,インターネットを活用して情報を集める。
  • [④デジタルリテラシーの育成][⑦国際的視野の深化]
  • ALTはジェスチャーを交えながら話をしていたから,そうしてみよう。
  • 相手の反応を見ながら,話そう。話すスピードが大切だな。
  • 「ポトフに似ているよ」と伝えたいな。
5
  • 友達とおすすめの料理を紹介しあう。
  • [① コミュニケーション能力の育成][②自己調整能力の育成]
  • [③ 協働力の育成]
  • (写真③)
  • 友達からの助言をもとに,伝え方を改善する。
  • [② 自己調整能力の育成][⑤創造力の育成]
  • 友達とやり取りをしての感想を共有する。
  • [⑤社会的・情緒的スキルの育成]
  • 分かりにくいところを詳しく説明してくれたから,伝えたいことが分かった。
  • 自分の伝えたいことが友達に伝わってうれしい。
  • "nice."や"I want to try it."と反応したら,友達が喜んでいた。リアクションは大事だな。
6
  • 相手を変えて,教育実習生やALTにおすすめの料理を伝える。
  • [① コミュニケーション能力の育成][③協働力の育成]
  • (写真④)
  • 相手の立場に立って,伝えた方を工夫しながらおすすめの料理を伝える。
  • [② 自己調整能力の育成][⑤社会的・情緒的スキルの育成]
  • (写真⑤)
  • 前回,友達からもらったアドバイスを生かして,相手に伝えよう。
  • 初めて会った人にも英語で自分の思いを伝えることができた。もっともっと,たくさんの人と話したい。
  • その国の言葉であいさつをしたら,喜んでくれた。現地の言葉を知ることの大切さが分かった。
  • 友達のスピーチを聞いていると,本当に食べたくなってきた。
7
  • オリジナルランチメニューを考えて友達と伝え合う。
  • [⑦国際的視野の深化]
  • 世界の食べ物をたくさん知ることができた。
  • 家でも作ってみたい。
  • 給食のメニューに自分たちが考えたメニューを提案してみよう。

[写真①:オンライン辞書を活用している様子]

[写真②:子供の思考]

[写真③:友達と伝え合う姿]

[写真④:他者を変えて伝え合う姿]

[写真⑤:伝え方を工夫しようとする姿]

3.終わりにー自己調整能力と協働して学ぶ力を一体的に育てるためにー

小学校における外国語活動と外国語科の授業は,単なる知識の習得にとどまらず,他者に配慮しながら自分の意見を伝え,相手の意見を理解する能力を育むことが求められている。また,他者との関わりを通じて自己を表現し,相手と共に学び成長する場にもなるべきだと考える。このような学びを通じて,子どもたちは他者とのコミュニケーション力を高め,協力して問題を解決する力を養うことができる。そのためには,子供たちが他者と関わりながら学ぶ姿勢を育むことが重要である。また,子供たちの学習が孤立しないようにするためには,個別で自分の伝えたいことを習得する学習に加え,ペアワークやグループワークといった協働作業の学習形態を取り入れることが効果的である。これにより,子供たちは必要な場面で自ら他者と関わる機会を得ることができる。こうした協働的な学びを通じて,自己の伝え方をアップデートしていく経験を積むことができるのである。子供たちが外国語を用いて積極的に他者と対話し,協力して問題を解決する経験を通じて,自己調整能力や他者との協働力が育まれる。これらの力は,単なる学習の場面にとどまらず,社会に出てからも必要とされる重要な資質となる。そのため,教師は,単元を通して子どもたちが成長できるような学びの場を設計する責任がある。単独の授業にとどまらず,長期的な視点で子どもたちの学びを支え,子供たちの思いに寄り添った指導を行うことが大切である。学習課題の設定や活動内容,評価方法などを工夫し,子供たちが自分の学びを振り返り,次の学びへとつなげていけるような支援を行っていきたいと考える。