高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

中高一貫教育校における『Element』の可能性について

香川県立高松北中学校・高等学校 笠井 真希子

1.はじめに

本校は2001年度に既存の香川県立高松北高等学校に中学校を併設することで,香川県立高松北中学校・高等学校の中高一貫教育校としてスタートし,設立23年目を迎えている。高校進学時にはほとんどの生徒が内部進学をしており,中高合わせて6年間を本校で過ごしている。
本校では令和2年度から,中学3年次に英語・数学において高校の教科書を使用して高校の学習内容を学ぶ「先取り学習」を開始している。先取り学習1期生は本年度高校2年生となり,来年度全学年において先取り学習が教育課程に組み込まれた生徒がそろうこととなる。英語においては『Element Ⅰ(啓林館)』の教科書を用いており,まだまだその使い方には試行錯誤を繰り返している状態で,より効果的な英語学習を目指して,その可能性を探っていきたい。

2.本校「先取り学習」について

中学生は各学年3クラス編成で,中学2年次から各クラス内で標準コース・先取りコースに分かれ,英語・数学の全授業において15〜17人の少人数授業を実施している。標準コースでは従来通り,学年に応じた教科書を使用して授業を進める。コースの選択は生徒の希望によるもので,2年から3年への進級次には,先取りコースから標準コースへの変更は可能であるが,教科書の進度のことがあるので,標準から先取りへの変更はできない。標準時数より1時間多い週5時間英語の授業を実施しており,中学2年次の2学期途中から中学3年の教科書に入り,中学3年の2学期途中から高校の教科書を使用する。教育課程に先取り学習を反映しており,中高一貫教育校ならではの取組みである。
高校1年生は選抜クラス(飛翔クラス)と一般クラスがあり,『Element』は選抜クラスで使用しており,内容も高度である。希望者の選択であるとはいえ,中学生に高校のハイレベルな教科書を使って授業をするには工夫が必要である。

3.中学英語から高校英語へ

中学時には英語が得意(好き)だったが,高校に入るとそうではない,という生徒は少なくない。中学英語と高校英語は何が異なるかを考えると,大きな違いの1つに教科書にある英文の量があげられる。現在の学習指導要領においては,小学校英語の教科化が反映されているため,中学3年生教科書の英文量は以前の高校1年生教科書程度となっており,ずいぶん増えた印象はある。しかしながら大学入学共通テストの英文量を考えると,相当な量を一定の時間内に読み取ることが求められる。
中学ではセクションごとの英文をもとに,新出の文法,単語を習得し,それについての言語活動を繰り返し行う,というパターンが教科書の基本となっており,多読という点においてはその指導を行うことは難しい。それにも関わらず高校では一定の速度で一定量の英文を読みとることが1年次から求められ,そのことが中学時に英語が得意であった生徒が,高校に入ってすぐ英語が苦手となる一因となるのかもしれない。
そこで,いわゆる「ざっくり読む」ということをしても良いのだ,ということを中学時から体験し,多読へ繋げるトレーニングとさせたい。

4.「ざっくり読み」について

スキミングやスキャニングと呼ばれる手法は「ざっくり読んでいるようで,実はそうではない」ということは英語教員の多くが認識していることだろう。あくまで母国語等,言語使用に問題のない読解における速読の手法であって,どこを飛ばし読みしてよいか,どこがじっくり読むほど大事でないかを判断するには,全部読むことが欠かせないからだ。言語習得中の生徒が使うスキルとしては非常に難しく,ましてや中学生が正面から取り組むにはハードルが高い。「正しい速読」の前に「分からない単語があっても読み続ける,聞き続ける」訓練をし,大量の英文を目の前にしたときに拒絶反応を起こさず,気持ちで負けない読み続ける力をつけさせることも,高校での指導で大変役に立つ重要なことだと考える。その指導として教科書準拠のサブノートを使った指導を実施する。

5.サブノートの使用

『Element Ⅰ』には教科書に完全準拠した学校採用専用のサブノートがあり,授業用ノートとして,また予習ノートとして使用することができる。構成はレッスンのシーン(段落)ごとに以下の内容となっている。

このようにサブノートの内容は充実しており,順に追っていけばテーマについての考察,本文内容理解からリテリング等の言語活動までカバーできるが,「中学3年生が難易度の高い長めの英文を読み,そのアウトラインをつかむ」ことを目標とするため,(2)④のTrue of Falseと⑥Dictationをメインの活動として行う。内容によっては,先にTrue or False を読み,それに答えることを優先して活動を進めたり,Dictationのpassageを先に目を通すことでアウトラインをつかむ等,順番を変えて読むことで長文への抵抗感を減らす工夫も考えられる。

6.今後の展望

本校中学での『Element Ⅰ』の使用は始まったばかりであり,今後,より効果的な使用に向けて中高英語科において議論を重ね,実践を続けていく予定である。中学における高校教科書使用は中高一貫教育校だからこそできる取組みであり,高校での英語教育においても「先取り学習」によって生まれる時間的余裕を言語活動や討論にあて,英語を学ぶことから英語で学ぶ次元に高めて行くことが本校英語科の長期的な目標である。