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英語

ICT主任として向かう英語授業
〜生徒が「成長」を感じる指導を目指して~

島根県立松江北高等学校 田中 求

1.はじめに

本年度,私は学年主任として,そしてICT教育推進担当主任としての勤務を命じられました。本年度からGIGAスクール構想により生徒の一人一台端末が導入され,さらには新学習指導要領まで実施される年にこの二つの主任を兼ねるというまたとない機会をいただき,2学期を迎えた今も毎日が試行錯誤の真っ只中にあります。本稿では,そのような状況の中で,私と生徒たちがどう一人一台端末と向き合いながら論理・表現Ⅰの学習を進めているのかの一端を記そうと思います。

2.ICT活用と一人一台端末について

ICT端末の導入とその利用については,私の勤務する島根県では生徒の一人一台端末導入の数年前からGoogle Workspace for Education(以下本稿においてはGWE)の導入がなされており,それなりに準備期間はあったものの,生徒の端末所持を欠いた状態でもあったため,GWEの授業における利用は学校全体として低調なものがありました。よって,1学年の生徒全てとともに,それぞれの教育場面においてどうICT機器やGWEを利用していくかについては,やはり1から構築していく必要がありました。取り組みの中のほとんどが,私自身や学校全体にとっては全く新しいものであり,正直右も左も分からない状態からのスタートでした。

怒涛の1学期を超え,やや落ち着いた頃に私が「とりあえず」辿り着いた一人一台端末時代についての結論は,以下のようなものです。

(1)一人一台端末は飛び道具や特効薬ではない

当初,私が勘違いしていたことの一つです。どんなにICT機器を利用しようとも,生徒の「やる気」が劇的に向上することなどあり得ないというごく当たり前の事実に気づいたのは,機器が届いてから1ヶ月が経とうとする頃でした。一部の例外を除いては,紙ベースの提出課題を出さない生徒についてはやはり電子的なデータであっても提出はしないのです。生徒への一回一回の声かけ,個別対応はどんなにテクノロジーが発達しても必要なものなのだと考えています。

(2)「デジタルの旨み」が活かせる形で使わなければ業務は増え,効率は上がらない

GWE以外にもさまざまなサービスを試してきましたが,現実世界をICT機器の中に落とし込もう・再現しようとするサービスは総じて使いづらく,準備にも時間がかかる上に,収集したデータの連携が取れなかったりして,使用をやめてしまいました。「データの共有」「双方向のやり取りができる」「コピー/自動化が容易」など,デジタルの旨みがどこにあるのか?を考えて利用していくことが必要です。現在のところはさまざまなサービスが統合されており,データ的連携も容易にとれるGWEメインのワークフローに落ち着いています。

(3)生徒≠デジタルネイティブ世代

小・中学生のころからスマートフォンやタブレット端末に触れているからといって,生徒たちが端末の使い方を知っているわけではありません。時にはタイピングから練習という生徒もいるでしょう。よって,最初から「端末を渡しておけば誰もがすぐに使える」というのは早計であり,各アプリ/サービスごとに習熟のための時間が必要なことは言うまでもありません。とはいえ,生徒たちの適応能力は凄まじいもので,一旦サービスを使い始めればあっという間に「裏技」のようなものを含めさまざまな使い方を編み出します。このあたりは大人の比ではありません。

(4)大人も初心者スタート。できるだけ,簡単に到達できるものへ

あと2年で全ての生徒が端末を持っている時代が来るまで,それほどの時間はありません。さらに,現在1年生を担当していない先生方にとってはまだICT化は対岸の火事のようなものです。しかし,あと数ヶ月もすればそのような先生方も再び「初心者」としての試行錯誤の日々が始まります。よって,日々の教育活動に使うのはGWEの基本的な機能にとどめることにしました。端末操作の習得に時間をかけるわけにはいかないからです。もちろん,必要に応じて幾つか他のWebサービスが加わってはきますが・・・

(5)失敗こそ輝ける明日への糧。うまく行かせようと思わず,「狙い」に近づこうとする

今までに誰も見たことのない規模での一人一台端末の導入です。自分自身,今までの数年間で準備はしてきたつもりですが,実際に授業で一人一台端末が実現された環境での実践はほぼ全く行うことができていませんでした。このような状況の中,「うまくいかせなければ」という気持ちをまずは捨て去ることにしました。それよりも,毎回の端末使用に「使う旨み」をきちんと設定し,授業の「ねらい」に近づくものになっているかどうか,を考えることとしました。「とりあえずうまくいかせよう」とするのは自分を含めた教員の悪い癖なのかもしれませんし,そう考えていると大きな変革など成し遂げようもありません。
上記をふまえ,英語授業の話に移りたいと思います。

3.授業実践例

本校では「論理・表現Ⅰ」の授業用教科書にVision Quest English Logic and ExpressionⅠ Advancedを,副教材としてVision Quest 総合英語 Ultimate 2nd Editionを使用しています。
Vision Questの分量・例文はいずれもそれ程多くないので,文法的な背景や根本的な共通ルールを提示しながら授業がしやすい半面,運用に注意しなければ演習量を稼いで「インテイク」を図ることができなくなる恐れがあります。よって,この「演習」「言語活動」の場面において一人一台端末を活用することを基本方針としました。

現在の授業の流れは,

を基本としています。

前述のように,このうち,生徒の端末を利用した学習となるのは主として④ですが,その他の英語授業での利用場面についても簡単に記しておきます。

さて,④+αの問題演習などの部分について,これまでの実践を記しておきます。
最初に行ったのは,以下のような取り組みです。

なんの芸もない取り組みであるうえに,問題を作ってGoogleフォームに解答つきで準備するのには膨大な時間がかかり,生徒へのフィードバック機会が授業中・全体への1回に限られます。なんとかこれらの問題を解決できないかと考え,

という方法に変更しました。Google Classroomで課題を配信する際,Google ドキュメントで解答フォームを作成し,「各生徒にコピーを配信」として課題配信することで簡単に実現できる方法です。これにより,さまざまな点で変わったことがあります。

最終的にTry it Outの問題は口頭で行わせた上で,授業内で回収・集約しきれない生徒の実態があると考えた場合はすぐにGWEの課題として配信しています。さまざまな試行錯誤の末,現時点での一番シンプルな形に落ち着いているのではないかと考えています。

さらに,Try it outの問題が終わったあとでオリジナルの言語の使用場面を作り,同様にGWEの課題として配信するようになりました。例えば,Vision Quest Lesson 4-2の過去完了学習時には,「過去完了を用いてタネ明かし・オチのある話を作る」という課題を配信しました。もちろん過去形と過去完了形の使用が必須になる課題ですが,生徒たちの出してくる解答が面白く,こちらも娯楽でやっているのか仕事でやっているのかわからない状態で大変楽しみました。

このようなGWEを通じた課題のやり取りの中で,特筆すべきこととして「生徒との関わりが以前はあり得なかったほどに増大する」ことを挙げたいと思います。

まず,生徒から提出された課題に教科担当は「提案」モードで助言を加え,生徒に返却します。生徒は,この受け取った助言を活かして再度課題に修正を加え,再提出します。こうして返却された課題をさらに教科担当は提案を加え,返却,そしてさらに生徒が再提出・・・というキャッチボールが続くことになります。そうするうちにスパイラルに生徒の提出する成果物は完成度を高めてゆくことになります。

このように,「提出」→「提案・助言」→「修正・提出」→「提案・助言」→「修正・提出」のサイクルを繰り返すことにより,今まで以上に密な関わりで生徒の英語力育成にむかうことができます。通常のノートなど紙ベースでの提出ではなかなかこうしたやり取りはできず,一度の提案・助言が精一杯でした。結果として,生徒は「ふーん,こうなるのか」と納得して終わりとなり,それ以上の修正を加えるということは考えにくい状況でした。それがICT機器により,このやりとりが非常に双方向的なものになり,かつ一度の提案・助言では出てこなかった側面について助言することができるようになります。例えば最初は文法・語法・文構造についての修正提案を行い,徐々に文章としての構造に助言をシフトする,といったことが可能になるのです。そして,一連の指導を通じて出来上がった成果物を最初の状態と対照すると,まるで別物と言える出来になっていることが非常によくあるのです。生徒自身にもそれを示すことで,「学びが自分の成長につながっている」ことを実感させることが可能となります。

このような助言は,慣れてくれば一人あたり1〜3分程度で行うことができるうえに,よくある間違いや文章構造の捩れなどについては,自分の提案をコピーしてメモ帳に貼り付けておき,のちに生徒に提示したり流用したりすることも可能になります。紙ベースで同じことを行おうとするとどれくらいの時間がかかるかを考えると,もはや,めまいのする世界です。

4.おわりに

現在は上述のような指導に加え,他社の配信教材や,Web上の一問一答式テストを組み合わせることで,生徒自身が自分の理解度を随時チェックできるよう働きかけています。また,啓林館の「スマートレクチャーコレクション」の導入も予定しています。「教師が全てをやらなければ」という思いを持っていた過去の私からすると,一見するとやる気のない「他力本願」のように見えるかもしれない取り組みです。しかし,実際はよくある「教師自身がもつ特有の得意ジャンルへの過度な傾斜」やそれによる「抜け・漏れ」を防いでくれる,優れた相棒のような存在です。こうした外部的な援助を効果的に活用し,今後も指導を発展させてゆきたいと考えています。