1964年(昭和39)年に「佐久高等学校」として開校した本校は,1995(平成7)年に長野県下最初の中高一貫教育を図るため,「佐久長聖中学校」を併設し,それに伴い「佐久高等学校」から「佐久長聖高等学校」へと改称しました。「礼節 忍耐 誠実」の心を養い,文武両道における生徒の可能性を最大限に伸ばすために,「知育」「徳育」「体育」および「気育」「美育」の五育を大切にした全人教育に力を入れています。そして,21世紀の世界をリードできる国際的視野と豊かな人間性,知性を備えた人財(人的財産)の育成に努めるとともに,難関大学への現役合格を可能とする学力の錬成に全力を傾けています。
また近年は,上記に加えて,グローバル社会に対応するため,メインスローガンとして「世界の佐久長聖へ」,サブスローガンとして「英語の佐久長聖」と銘打って英語教育に力を注いでいます。具体的には,海外大学との提携と海外進学向けのガイダンスや個別相談会,アジア高校生架け橋プロジェクト(文部科学省補助事業)などの留学生の受け入れ,オンライン含む各種国際イベント,オンライン英会話,そして本校ALTによる授業や放課後のプライベートレッスンなどを行っています。残念ながら,近年はコロナ禍のため,海外研修はこの3年開催には至りませんでした。しかし,こういった状況においても,校内で様々な手段を使って「グローバル化」を体験できる環境を整えています。
私自身は,上記スローガン「世界の佐久長聖へ」を具現化するために設立されたグローバルパートナーシップ部の主任と進路実現に必要な学力を身につけさせる英語教員をしています。よくこの2つは乖離していると言われがちですが,バランスを取りながら舵を取っています。
本校で行っている「国際化」に向けての取り組みを紹介します。
〇オリエンテーション(1年生4月実施)
「長聖高校が考えるグローバル化とは?」「なぜ英語を勉強する必要があるのか?」などの問いかけを通して,本校の取り組みを紹介します。その際に,日本をはじめ世界を取り巻くデータなどを踏まえてオリエンテーションを行います。グローバル人材に必要な資質を養う姿勢をマインドセットさせることが目的です。
新入生オリエンテーション(2022年度はmeet開催)の様子
〇エンパワーメントプログラム(全学年希望者対象 7月実施)
株式会社ISA主催の企画です。国内外から世界各地の優秀な外国人学生に集まってもらい,生徒と共に,あるテーマに基づいて,グループディスカッションを5日間通して行う企画です。最初,英語を使うことに消極的だった生徒も時間が経つにつれて見違えるほど積極的に英語を使うようになります。最終日は,この5日間で学んだことを1人1人が参加者の前でプレゼンをします。その姿は初日と見違えるほどの成長を感じることができます。
〇オンライン英会話(1,2年生対象 週1回)
日頃の授業でインプットした内容をオンライン英会話でアウトプットできる機会があります。教科書に出てくるキーフレーズや文法事項などに焦点を当てて会話を行います。また,帰国子女のような英語レベルの高い生徒や意欲がある生徒に対しては,SDGsをテーマとした会話や英検2次対策など,生徒それぞれのニーズに合わせた内容となっています。1対1で逃げ場がないため,生徒はコミュニケーションを何とか取ろうと必死で取り組んでいます。
〇外国人講師による英語クラス(全学年対象 週1回)
プレゼンやライティングの指導を行い,生徒各自のタブレットをフル活用して英語で自分の考えを伝える能力を育成しています。プレゼンでは,友達の紹介や好きな物の紹介といった身近な話題から,住んでいる町,市の紹介や抱えている問題点などを扱いました。ある生徒は,市の問題点を近隣の住民の方へのインタビューなどを行い交通機関の問題点に関する発表をしました。また,ライティングでは,SDGsをはじめ世界で注目されている話題を取り上げて,自分の意見をGoogle classroomで講師に伝えました。講師は,スペルミスの訂正から文構造のアドバイスまで行い,検定試験や入試に向けた的確な指導もしました。この時間はパフォーマンステストとしての位置づけをしています。
外国人講師による授業の様子
〇放課後プライベートレッスン(全学年希望者)
本校の外国人講師が,それぞれの生徒のニーズに合わせたレッスンを行っています。英検の2次試験対策,大学入試の面接対策,純粋に英語を話せるようになりたい等々,理由は様々です。また,コロナ禍以前は,ハロウィンやクリスマスイベント,ゲームなどを行い授業とは一味違う取り組みをしていました。日本人学生と本校の留学生の交流の場にもなっていました。
上記の取り組みを踏まえて,校内では以下のような結果を出すことができました。
①英語を使うハードルが下がった
校内には,外国人講師や留学生が当たり前のように歩いています。“Hello”や“How are you?”などの簡単なあいさつや休憩時間に留学生と日本人学生が談笑している姿が当たり前の光景として見ることができます。
②英検の合格実績向上
英検をはじめ各種検定試験を積極的に受験するように授業やHRで連絡をしています。本校では,2年生までに英検2級を取得できるように声掛けをしております。以下が合格実績です。
1級 | 準1級 | 2級 | 準2級 | |
1年生 | 0 | 3 | 38 | 51 |
2年生 | 0 | 3 | 51 | 31 |
3年生 | 1 | 8 | 32 | 8 |
全 体 | 1 | 14 | 121 | 90 |
通常授業はもちろん,オンライン英会話,放課後プライベートレッスンなど英検に対するサポートを充実しました。その結果,受験者数が増え,合格者数も増加しました。また,合格したことで,積極的によりレベルの高い級(1級,準1級)へ挑戦する機運が高まりました。
③海外進学を考える生徒の増加
学内で定期的に開催している海外進学ガイダンスをはじめ各種セミナーを通して,海外進学に興味を持つ生徒が増えています。現在,アメリカ9名,イギリス3名の卒業生が各国の大学に籍を置いています。この卒業生たちの活躍で,今後,さらに多くの生徒が海外進学を身近なものとして感じられるのではないかと期待しています。
④トビタテ!留学JAPAN(文部科学省)に採用
文部科学省が展開する,留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」に,2018年1名,2019年4名,2021年7名(2020年は選考が行われませんでした)の生徒が採用されました。早い段階で海外生活を体験してみたい,異国の地でボランティアをしたい,得意分野をさらに学びたいなど様々な理由で挑戦した生徒たちです。校内にある「異文化体験」が彼らを動かした1つの理由だったことは間違いありません。
上記の通り,本校は英語教育に力を注いでいるため,他校に引けを取らない取り組みを行っていると思います。ただし,このような取り組みを行えるのは,日頃の授業が土台になっているからだと考えています。Google classroomやロイロノート・スクールなどITを駆使して,教科書内容をアクティブラーニングで教える場合もあれば,旧態依然の逐語訳をする場合もあります。単元に応じて,適当な形で授業を展開していきます。授業中によく会話表現で使われる構文や文法事項があれば,説明した後にロールプレイをしてみたり,ニュースや身近で聞いたり目にしたりするような単語は,しっかりと意味を確認して理解を深める努力を授業中に行っています。もちろん,日頃の単語ドリルやリスニングドリルなども知識定着のためには欠かせません。つまりは,しっかりとしたインプットがないとアウトプットをしたくてもできないということです。例えば,授業内で付加疑問文が出てきた場合,これを使って,次のオンライン英会話で試してみるように促したり,外国人講師の英語授業で出てきた表現が教科書に載っていれば,「○○先生が使っていた表現だよね」といったように授業で得た知識と実際の会話はリンクしているということを意識させるようにしています。本校で行っている実践事例と日頃の授業は別物として捉えているわけではなく,一本の線として考えています。
オリエンテーションでも生徒に伝えますが,英語を「勉強する」という発想を捨てて,「英語は道具」という発想で英語に向き合ってもらいたいと考えています。「この道具を使って,将来,一体何をしたいのか,何ができるのか」これを生徒に考えさせ,生徒自身が答えを導き出すことができれば,自ずと英語と向き合うと考えています。「目先の大学入試に合格するために英語を頑張る」というのが多くの生徒の発想です。これは間違いではないと思います。しかし,進学後もしくは社会に出た後,「そういえば,高校時代に身につけた英語が今の生活につながっている」ということを少しでも気がついてくれれば私の本望です。入試に出題される英語でも英会話でも「英語は英語」,この道具をどのように活かしたいのかを日頃から考えさせたいと思います。
現在の日本の少子高齢化や世界情勢を鑑みた際,日本国内だけで生活を成立させることはおそらく不可能だと思います。多くの外国人の方が人手不足を補うために来日するでしょう。日本語も学ぶかもしれませんが,来日者数が多くなればなるほど,日本語が堪能でない方も多くなることが予想されます。その方々の母国語が分かればいいですが,そうはいかないと思います。お互いが学んできた「英語」がお互いの共通言語になる可能性は高いです。また,人口減少ということで,多くの企業が海外へ進出しているというニュースもよく耳にします。これからの高校生は,当たり前のように海外での生活を求められることが予想されます。現地の言葉を身につける努力は必要です。しかし,思いを十分に伝えるには大変な努力が必要です。この場合も,共通言語となりうるのは英語ではないでしょうか。このように,グローバル化が進む世の中において,内外問わず「英語」というのは必要不可欠になります。この道具を高校時代にしっかりと身につけさせること,これが英語科教員としての使命だと考えています。生徒が少しでも自信を持って,グローバルに活躍できる人材になれるような環境を作るため,今後も日々研鑽を積んでいきます。