高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

英語力・論理構成力・発想力を同時に培う授業実践
〜スマコレにメッセージを込めて〜

神奈川県立湘南高等学校 廣瀬 彩乃

1.はじめに

本校は,大正10(1921)年に神奈川県立湘南中学校として創立され,令和3(2021)年度に100周年を迎えた,伝統ある学校である。全日制および定時制の2課程があり,全日制の普通科には3学年合わせて計1,000名強の生徒が在籍している。
平成29(2017)年度以来,県教育委員会から「学力向上進学重点校」に指定されているが,“Always do what you are afraid to do(最も困難な道に挑戦せよ)”を合言葉に,生徒は勉強のみならず行事・部活動にも全力を注いでいる。文字通り一年間の準備を重ねる「日本一の体育祭」の存在や,関東大会や全国大会にも名を連ねることの多い部活動の実績が,湘南生の日々の忙しさを物語っている。
スマートレクチャーコレクション(以下スマコレ)は,令和2(2020)年度の1学年から導入を始めた。文法・語法等の間違いを訂正し,エラーの多い項目を分析的に表示することで英語力を向上させることはもちろん,作文内容に対するコメントを実際に英語を母語とする方から個別にもらい,自分の英語が通じたという体験をすることでモチベーションが上がることに魅力を感じ,令和3(2021)年度の1学年にも継続して導入することとした。その結果,英語力はもちろん,論理構成力や発想力を培うことにも効果的であると感じている。本稿では,令和3(2021)年度の1学年に対するスマコレの導入事例を紹介する。

2.導入プラン決定時の検討事項

今年度1学年の生徒に向けて導入しているのは,“Vision QuestⅡ Ace” の5題プランである。これは啓林館が出版している検定教科書“Vision QuestⅡ Ace”の内容に準拠した問題が設定されているものであり,指定された20の問題から一人当たり5題分の添削を受けることができるプランである。
本校で使用している教科書は“Vision Quest” ではないが,スマコレの他のプランを含めて検討した結果,以下の3つの理由からこのプランがもっとも適しているという結論に至り,“Vision QuestⅡ Ace”を採用した。

  1. 本校の生徒が進学を希望する最難関大学の入試問題を考慮に入れたとき,授業として扱うに値すると判断できる題材が複数含まれていること。
  2. 本校が採用している教科書の内容に関連する題材が複数含まれており,授業の内容と関連付けながらの実施が可能であること。
  3. 題材の難易度や指定されている作文の語数が,本校一学年の生徒にとってちょうどよいレベルであると判断したこと。

3.実施時期・題材

4月,入学後初めての授業の際に,全ての教材の使用時期と範囲を示した年間進度表を生徒へ配付した。年間の授業計画を明確化することで,全ての教材を体系的に指導に生かすことが可能になり,採用教材同士を有機的に結びつけながら授業を展開することができている。現時点で実施済みであるスマコレのトピックおよび実施時期について,本校が採用している教科書のおおよその題材とともに示したのが以下の表である。なお,スマコレの全ての指定問題について,論理構成を指示するプリントを作成し,生徒へ配付・説明した上で作文を課している。

●スマコレ実施時期および内容

5〜7月 夏課題 9〜12月 冬課題 1〜3月
教科書の
題材
小説 ―― 貧困 文学 環境
スマコレ
指定問題
好きな本または映画 クラブ活動や課外活動 ボランティア活動 ストーリーを考える (未実施)

4.実践例

直近に実施したスマコレの問題について,大まかな流れおよび実際の生徒のやりとりを紹介する。

●大まかな流れ

時期 実施内容
冬休み前
(授業)
  • ◯教科書の題材(文学作品について)を扱う。
  • ◯プリントを配付し課題内容および求められる論理構成を理解する。
冬休み
(自宅学習)

◯各自課題に取り組む。
課題:

  • ①指定した問題について,スマコレ上で解答し提出する。
  • ②添削・訂正を反映させたリライトを行う。
  • ③作品をスクリーンショットし,データを指定された学習アプリ(※)上に提出する。

    ※本校では生徒が提出した作品を相互に鑑賞することができる授業支援アプリを導入している。

冬休み後
(授業)
  • ◯オンライン上で互いの作品を鑑賞し合い,コメントを書いて作品作成生徒へ送信する。
  • ◯全員で論理構成力や発想力の重要性を確認し,入試問題に挑戦する。
定期試験

◯論理構成力や発想力を要する英作文を課す。(予定)

●冬休み前に配付したプリント
スマコレの課題に取り組む前には必ずプリントを配付し,解答作成の手順や論理構成の確認,模範解答例の提示等を行なっている。

●指定したスマコレの問題
以下の問題からいずれか一つを選択し,冬休み中に解答をスマコレ上で提出するよう指示した。

  • ◯次の書き出しに続くストーリーを考え,さらに60語程度の英文を書き加えてみよう。
    Last Sunday, when I was reading a book at home, suddenly there was a knock on the door.
  • ◯次に与えられた英文に続くストーリーを自由に考え60語程度の英文を書きなさい。
    ただし与えられた英文は60語に数えない。
    The afternoon was cold and snowy. Suddenly there was a knock on the door.

●学習アプリ上に提出された様子
冬休み明けの授業において,オンライン上で全員分の名前と作品を表示し,互いの作品を鑑賞し合った。

●提出作品・鑑賞後の送信コメント例
作品観賞後,感想・コメントを書き,作者生徒へ個別送信した。

●論理構成力や発想力の重要性の確認
多くの生徒が目標とする大学の入試問題においても同様の論理構成力や発想力が必要とされている例を紹介した。実際に東京大学の過去問から英作文を複数出題し,解答作成に取り組んだ。

5.スマコレ導入の利点と成果

本校でスマコレを導入していない1学年を担当したことがないため,比較検討をすることはできないが,今年度感じているスマコレ導入の利点や成果を大きく4点紹介する。

  1. 英作文,ひいては英語学習へのモチベーションが向上する。
    ネイティブスピーカーから個別にポジティブなコメントをもらえるという特性が,生徒のモチベーションを飛躍的に向上させている。英語に苦手意識を持っている生徒にとっても取り組みやすく,英語学習自体の動機付けを高めることにつながっている。
  2. 体系化されたエラー分析により,生徒の苦手分野を正確に把握することができる。
    紙媒体での英作文を添削する際にも感覚的に生徒の苦手を把握することができるが,スマコレを使用することで生徒のエラーをデータとして把握することができるため,より効率的に苦手部分に特化した指導を行うことができている。
  3. トピックの選定を通じて生徒へメッセージを伝えることができる。
    スマコレの20のトピックから課題を指定する際,選定の意図を生徒へ伝えることで,授業で扱う教科書の内容や実際の入試問題の内容等と,英語の論理構成や英語圏の文化等を関連付け,机上の学習を実際の英語使用につなげることができている。
  4. スマコレの学習内容を発展的に扱うことができる。
    今回紹介した例のように,生徒同士が作品を鑑賞し合う活動や,スマコレの英作文と同様の論理構成力や発想力が必要となる類題を入試問題から紹介することにより,スマコレの学習内容を発展的に扱い,生徒の習熟を促すことができている。

また,生徒を対象にアンケートを取ったところ,好意的なコメントが多数寄せられたため,一部を紹介する。

●生徒から見たスマコレの良いところ(抜粋)

  • 添削も丁寧で分かりやすく,コメントも返してくれるので「自分の経験や意見が海外の人にも伝わったんだ」と少し自信になる。
  • 添削(フィードバック)に人間味があっておもしろい。コメントを読むのが楽しく,モチベーションをあげてくれる。
  • 文法のことだけでなく,内容に関してもネイティブの人の視点から様々な意見をくれるので,いろんな面で新たな学びがある。
  • 一度出して終わりじゃなくて,もう一度リライトする仕組みがあるのも良い。直すべきところを直すだけでなく,よりよい表現を改めて探すこともできる。
  • コメントつきで返ってくるので,実際にネイティブの先生とやり取りをして,一緒に英文を作っているように感じる。
  • 英語でコメントが返ってくるのでここでも新たな単語を知ることができる。

6.終わりに

スマコレは,学習意欲や英語力を向上させることだけでなく,論理構成力・発想力等の将来必要になる力を培うことも可能にするツールであると感じる。スマコレというサービスを導入することありきで年間指導計画等を立てるのではなく,育てたい人物像を明確化させた上でスマコレをうまく活用することができている現状を維持し,引き続き教員としての職務を全うしていきたい。