学習指導要領では,言語活動及び複数の領域を結びつけた統合的な活動を通して,論理的に思考し,情報や独自の考え,問題の解決策を提案することが求められています。
神戸高校では「リーディング活動とスピーキング活動の統合」に着目し,コミュニケーション英語Ⅰ,Ⅱの授業において,英語の知識・技能と,その知識・技能を活用する思考力・判断力・表現力を育成・評価するためにリーディングを活用したスピーキングテストを用いた実践を行いました。
1年生の春から2年生の夏までの合計4回(1年生6月・10月・2月・2年生6月)のプレゼンテーション形式のスピーキングテストを行いました。テスト内容と評価基準を変えていくことで生徒に適切な負荷をかけ,生徒の抱える課題を克服する支援を行いました。
クラスの生徒の前で,絵とキーワードを用いて教科書1レッスンの1パート分のリテリングをする。
英語を話すときは,聞き手の顔を見ることができない生徒や,書いてある英語を「読む」ことしかできない生徒が多いと感じていました。まずは教科書の内容を自分の言葉で人前で発表することをねらいとして,人前で教科書のリテリングをするという形でのスピーキングテストを行いました。
成果:原稿を見ずに人前で英語を話すことができた。
課題:発表時に聴衆の方を見ることができない生徒が多かった。
聞き手の顔や反応を見ながら話す力を伸ばすために,発表者が聴衆に質問をし,その答えを受け止めながら教科書のリテリングをする。
第1回のテストでは,黒板に貼ってあるイラストとキーワードを見ながら本文を再生するテストでしたので,黒板ばかりを見て,聴衆に顔を向けない生徒が多かったです。第2回のテストは,聴衆の方を見ることができないという課題を改善するために,プレゼンテーション中に,聴衆とやりとりをする形に変えました。
プレゼンテーション中のやりとりは,What happened next? Have you ever heard of ~? If you were ~, what would you do? といった質問で行い,発表内容は教科書の内容であっても,何を聞くか,聴衆の答えにどう反応するかは生徒によって異なるので,聴衆も興味を持って発表を聴くことができました。
また,テストまでに,相手の言ったことを繰り返す,相手の発言に関係あることを言う,といったコミュニケーションストラテジーを練習しました。
成果:聴衆の方を見ながら発表する生徒が増えた。聴衆の興味を引き出す工夫が見られた。
課題:教科書の丸暗記が多い。次回は生徒の独自の考えを述べる課題を設定する。
教科書のリテリングに加えて,生徒自身の意見を発表する。発表後の質問にも答える。
第2回のテストでは,生徒も人前で英語を話すことに慣れてきたこともあり,ほとんどの生徒が聴衆の方を向いてプレゼンテーションをすることができました。そして,やりとりを通していい雰囲気の中で楽しくプレゼンテーションを進める生徒も増えました。ただ,独自に考えた聴衆への質問を除き,発表の内容は教科書本文の再生だけだったので,生徒の独自の考えを述べる課題にする必要を感じました。第3回は,教科書の内容の要約と,それに関連した独自の考えを発表する形でスピーキングテストをしました。また,生徒の発表後に質疑応答の時間を設けました。
第3回のトピックの一部:8個のトピックから一つ選ぶ
Summary of Part1 and Part2
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Stephen made a list of the things he wanted to do. Do you have some things that you want to do? For example? Why? Please tell us your concrete plan.
Summary of Part1 and Part2
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Stephen wrote "Bad things happen, but it's how you react to these things that define who you really are."
Have you ever had a big experience that defined who you really are?
Summary of Part1 and Part2
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Stephen knew his life was not long.
If you had a serious disease like Stephen, would you want to know the truth or not? Why?
成果:生徒が独自の考えを発表することができた。発表後の質問に答えることができた。
課題:8個のトピックから一つを選んで発表するという課題であったため,公平な評価をするのに苦労した。
教科書の要約技術不足が目立った。
教科書のリテリングに加えて,社会的な話題について生徒独自の発表をする。
第3回と同様に,教科書内容の要約と独自の発表という形は継続しましたが,独自の発表内容を社会的な内容に関することに変えました。生徒はインターネットや書籍を活用し,必要な情報を集めて発表内容を考えました。
また,教科書の要約を「削除」と「複写」のみで作成するという発表が多かったので,要約部分の評価に,パラフレーズができているか,という観点を加えました。具体的にどのように英語を英語で置き換えることができるのかを示し,練習をして生徒の要約能力の向上に努めました。
第4回のトピック:2個のトピックからどちらかを選ぶ
Summary of Lesson 1
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Introduce a person who has deepened a relationship between countries.
Explain the historical background of the era and what the person did.
Summary of Lesson 4
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Introduce an animal that is decreasing in number.
Explain the cause and introduce a way to save them.
成果:原稿を暗記するだけの生徒が減少し,絵とキーワードから英語を考えて話す生徒が増加した。
課題:調べた内容の紹介にとどまり,独自の考えに言及する生徒が少なかった。
人前で英語を話すことの抵抗感が少なくなり,聴衆の様子を見ながら発表ができる生徒や聴衆の興味を引き出す工夫ができる生徒が増加しました。また,暗記した英語を再生するだけしかできなかったが,その場で考えて即興的に英語を話すことができる生徒が増加しました。特に,第4回テストに向けて行ったパラフレーズの練習を通して「覚えた英文を忘れても,その場で英語を自分の頭で組み立てながら話せるようになった」と感じる生徒も増えました。
今回の実践でのリーディング活動とスピーキング活動の統合的言語活動を充実させること,また,継続的にスピーキングテストを実施することにより思考力・判断力・表現力を伸ばすことができました。
上記のような成果があった一方で,第4回のテストでは,社会的な話題についての独自の考えや問題の具体的な解決策を提案する生徒が少なかったことが次の課題として浮かび上がりました。そのような力を伸ばすために,生徒の思考をより深められるような対話やグループ活動,中間フィードバック等を取り入れていきたいです。