この実践は私が昨年まで勤務していた公立高校(1学年7クラス・共学)でのものである。東大をはじめとする旧帝大系や医学部のような最難関レベルに数十名が進学する地域トップの進学校である。英語科全体が新しい実践に対して前向きで,全ての教師がいわゆるアクティブラーニング型授業に取り組んでいる。生徒もそうした授業に対して反応がよく,英語を使ってのコミュニケーションに積極的である。また,県の施策として生徒全員が学習用PCを所有し,全教室に電子黒板が配備され,Wi-Fi環境が整っている。
採用していた英語表現の検定教科書「Vision Quest」は,文法シラバス的要素の色濃い教科書ではあるが,各レッスンに表現タスク “Use it”や“GOAL!”が設定されている。これを参考にして活動を設定し,授業の中心に据えた。文法演習問題Exerciseは,生徒が各自で予習し,配布される解答を使って自己添削の後,必要に応じて教師が解説を加えるスタイルであった。50分授業で,基本例文の音読や明示的文法指導は最大20分にとどめ,残りは生徒が話したり,書いたり,友人の作品を読んだりする時間として確保した。
(1)英語表現Ⅰ(1年次)
目標:自分の親や担当教師がどれくらい厳しいかを具体的に説明する。
重点文法:(原形)不定詞,使役動詞
<1時間目>
①電子黒板に提示される英語の質問に,メモを取りながら答える。
②電子黒板に提示されるやりとり例を参考にしながら,メモの内容をもとにペアで対話をする。(ペアを変えて数回繰り返す)
③電子黒板に提示される型を参考にしながら,友人の使っていた表現も取り入れつつ,メモの内容をもとにノートに30語以上で英作文する。(時間内に書き終わらない場合は次回までの宿題となる)
<2時間目>
④自分の書いた英作文を,不定詞を使った表現に焦点を絞って,自分で見直す。
⑤ノートをランダムに交換し,友人の英作文を読み,内容に関するコメントを書き込む。不定詞を使った表現に誤りがあれば指摘する。(ノートを回して数回繰り返す)
⑥戻ってきたノートのコメントを読み,指摘された誤りがあれば修正する。
(2)英語表現Ⅱ(2年次)
目標:思い出の写真を描写し,エピソードを説明する。
重点文法:関係代名詞・関係副詞
<1時間目>
①持参した写真を見せながら,写っている人や物について,ペアで対話をする。
②同じタスクを,ペアを変えて数回繰り返す。ただし,毎回異なる指定された関係詞を必ず使用する。
③[宿題]写真とその説明文(3か所以上で関係詞使用)をWord文書にまとめる。
<2時間目>
④作成してきた説明文を,関係詞の周辺に焦点を絞って,自分で見直す。
⑤写真と説明文を画面に表示した状態で学習用PCをランダムに交換し,お互いに内容に関するコメントを入力する。関係詞周辺の表現に誤りがあれば指摘する。(相手を変えて数回繰り返す)
⑥コメントを読み,指摘された誤りがあれば修正する。
(3)英語表現Ⅱ(3年次)
目標:「宇宙開発はお金の無駄だ」という意見に対して100語程度で自分の意見を述べる。
重点項目:複数の理由と例を挙げて,自分の意見を論理的に述べる。
<1時間目>
①与えられた論題に対して,3分間で構想を練り,アイデアをメモする。
②ペアでアイデアを共有し,参考になるものは自分のメモに加える。
③辞書は使わずに,7分間でできるだけたくさんの英文をノートに書く。
④[宿題]書きたいが書けなかった表現を辞書で確認し,英作文を完成させる。
⑤[宿題]完成した英作文を,スマートレクチャーコレクション(外国人講師が生徒の英作文を添削してくれるオンライン学習サービス)でネット提出する。
<2時間目>
*生徒が提出した英作文(見え消し添削済み)と添削者によるコメント数点を,事前に教師がプリントにまとめる。
⑦配られたプリントに目を通し,他の生徒が述べているアイデアや使っている表現,添削者のコメントで参考にしたい箇所にマーカーを引く。
⑧自分の英作文に届いた添削結果とコメントに目を通し,必要があれば他の生徒や教師に質問する。
<生徒の作文とコメントの例>
生徒の作文(訂正箇所を含み原文ママ):I disagree with this topic that space exploration is a waste of
money. First, we have to search for planets which where human beings can live. In the future, the sun
will be bigger. Humans will feel too hot to live in the earth. So humans must move to other planets
someday. Second, we can know about the dangers facing the earth is facing. There are many
artificial satellites around the earth and we can see the space. So we will be able to expect to
detect the fall of a meteorite or something. If we know that, we can defend ourselves from dangers. For
these reasons, I strongly believe that space exploration is not a waste of money.
添削者のコメント(原文ママ):Great essay. It is true that space programs help scientists learn more about the earth’s atmosphere and know how to better predict weather and natural disasters. We can also focus on looking for planets that can support human life, which may be the solution to the earth’s growing population. Learn when to use ‘which’ and ‘where’. Observe each correction and try to understand the problems. My best wishes to you.
(1)生徒の様子から
明示的文法説明と練習問題の解説という従来型の講義中心授業から,「話す」「書く」活動と焦点を絞った文法指導という4技能バランス型授業に変えたことにより,英語表現の授業自体が活気あるものになった。講義中心授業であっても生徒がアタマをアクティヴに働かせる状態にすることは十分可能であるが,4技能バランス型授業にすることで,50分の授業にめりはりが生じ,居眠りが事実上不可能な状況となった。その結果,焦点を当てている文法項目については授業内で反復演習時間が確保されているため,特に苦手意識のある生徒に対して(居眠りをして何も学びが起こらないよりは)プラスに働いた面もある。模試の結果を見る限り,文法の正確な理解と知識の定着に,さほどの問題は生じなかった。反面,教師の説明を聞くだけで知識をどん欲に吸収できる英語好きなタイプの生徒には,そうした機会が以前より減少していることは事実である。それでも,例えば模試の偏差値で十年前の同じレベルの生徒と比べるならば,授業内の様子を見るだけでも,今の生徒の方が圧倒的に話す力と書くスピードは上であると断言できる。
(2)外部検定試験の結果から
1年次より初夏と年末の2回,GTECを全員受験してきた。やや意外だったのは,一見すると表現力を伸ばすような授業形態が,むしろ聞く力の伸びとして最初に効果が表れた点であった。一方的なCD音声のリスニング活動ではなく,ペアで話す活動が頻繁にあることで,相手の言おうとしていることを理解しようと集中して聞く機会が増えたことが,要因の一つではないだろうか。
学年平均スコア | Total(810点満点) | Listening(320点満点) |
---|---|---|
1年7月 |
487.4 | 183.1 |
1年12月 | 516.6 (+29.2) | 205.5 (+22.4) |
書く力については,実はスコア的には伸び悩みが長く続いた。しかし,3年次まで継続的に取り組んできた教科書ベースの表現活動が,スマートレクチャーコレクションで制限時間を意識した条件英作文に集中的に取り組んだことにより,最後は実を結ぶ結果となった。
Total(810) | Reading(320) | Listening(320) | Writing(170) | |
---|---|---|---|---|
1年7月 | 487.4 | 185.3 | 183.1 | 118.0 |
3年6月 | 568.4 (+81.0) | 213.1 (+27.8) | 223.1 (+40.0) | 131.8 (+13.8) |
何をもって「効果」とするか,何が効果的指導であったと判断するかは難しい。今回は英語表現の授業において取り組んだ,表現する活動に焦点を当てて報告している。そうした活動と同時に,明示的文法説明や文法ドリル,翻訳型英作文の取り組みも行っており,そうしたこととの相乗効果であったと考えるほうが自然である。また,コミュニケーション英語の授業でも,検定教科書を使いながら頻繁にペアやグループでの会話練習を取り入れたり,オックスフォード大学出版局のテキスト「Q:
Skills for
Success」を使用しての技能統合型授業を展開したりする一方で,構造分析や音読トレーニングの時間をきちんと確保し,復習として教科書本文のディクテーションを家庭学習として課していたことも,生徒の総合的英語力伸長に貢献したはずである。大手予備校等に日々通うことが難しい地理的条件下にある地方の公立高校として,バランスよく学習機会を提供することは常に心掛けていたつもりである。
つい先日,最難関レベルの大学に進学したばかりのある生徒からメッセージが届いた。いわゆる「超有名私立進学校」出身の同級生と話をする中で,彼は自分が受けてきた英語教育がやや特異なものであったと感じ,そのうえで,「あの相互交流が活発で,人前でも物おじせず英語を話せるような教育を,続けてください」と書いてくれていた。手前味噌ではあるが,こういうメッセージを受け取ることこそ,英語教師冥利に尽きるというものである。