この慣用句は、もともとは演劇界の用語でした。舞台はいったん幕が開けば何があっても中断してはならないものです。わが国でも、芸人は親の死に目に会えないことを覚悟しなくてはならないと言われています。また最愛の人が死んでも、舞台では普段と変わらない演技が要求されます。中止するわけにはいかないのです。
ですからこの慣用句の正しい意味は、「どんな逆境にあっても、計画され、もう始まったものは最後までやり遂げなければならない」という意味に使われます。
ロック・バンド「クイーン」は1991年、この慣用句そのままを、タイトルにした曲をリリースしています。この詩には、繊細で多感なフレディ・マーキュリーが歩んできた苦難の人生、そして上り詰めた者にしかわからない重責と虚無感が感じられます。人生を舞台に見立てるのは、シェイクスピアからの伝統です。エイズのため死を意識していたフレディは、どんな困難にあっても、人生を全うする気概ととことん役を演じ切るショーマンの覚悟を、私たちに、そしてフレディ自身に語りかけています。
“Whatever happens, I’ll leave it all to the chance.”
「何が起こっても、それはすべて成るようにしかならない」
“Does anybody know what we are living for?”
「何のために生きているなんて誰にわかるのだ、誰にもわからない」
“I’ll overkill.”
「とことんやってみる」
“The show must go on.”
「人生もショーも全うしなければならないんだ」
筆者訳
フレディは今も、音楽メディアを介して歌いかけてきます。魂をこめて。「何事も思うようにならないのは世の常だ。でも途中で投げ出すわけにはいかないんだ。命ある限り」と。
フレディの Swan song のハイライト、それは文字通りThe Show Must Go Onであった、と思います。