Eat crow? ―カラスを食べる? ジビエ料理の話ではありません。鴨、ウズラ、雉と違って、好事家、美食家でも、ゴミ、腐肉をあさるカラスを好んで食す人はあまり多くはないと思います。食欲をなくす人が大半でしょう。Eat humble pieと同義のアメリカ版慣用句のオハナシです。「非常にいやなことを無理やりさせられる、渋々間違い、敗北を認める」の意味で使用されます。たとえば、最近こんなことがありました。
“Prime minister Abe ate crow over the arrest of the former justice
minister in the buying case.”
「安倍首相は、買収事件での前法相逮捕について自身の非を認めた。」
由来は、作り話と思われる話が種々あり、はっきりしませんが、the Atlanta Constitution in 1888 に面白い記事があるので紹介します。
英国との間で勃発した米英戦争の終戦が間近に迫ったある日、狩りに出かけたあるアメリカ人が誤って英国の前線を超えてしまいます。そこで彼はカラスを撃ち落としますが、英国人将校から射撃がたいそう上手いとほめられ、銃を渡すよう言われます。気をよくしたアメリカ人は銃を渡しましたが、渡したとたん、銃口を向けられ、前線を超えた罰としてカラスを一口食べるよう強要されます。アメリカ人は仕方なくこの無理な要求に従い、銃を返してもらうのですが、今度は反対に英国人将校に銃口を向け、残りすべてのカラスの肉を食べさせ復讐した、ということです。
蛇足ですが、Eat crow には、冠詞(a)がついていません。カラスの肉を意味するからです。人の好いアメリカ人が一口食べた肉は、腿肉か、手羽先か、判然としませんが、見た目は肉であって、カラスではなかったでしょう。Eat a crowであれば、カラス1羽その形のまま食べるという意味になります。カラスの形状を残していれば、いくら何でも食べるのは無理であったかもしれません。一方、I could eat a horse. (馬1頭丸ごと食べられる)という表現があります。馬1頭食べられるくらい、すごく空腹だ、という意味です。馬肉を食す、という話ではないのです。
参考文献: The article in the Atlanta Constitution in 1888, World Wide Words: Eating Crow