数学切り抜き帳
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ANDとOR
桜花学園大学教授
岩井 齊良
 数学では論理(ものごとをきちんと考えること)が重視される.
 ここでは二次方程式の解法を論理の面から見直してみよう.
 次の例はよくある二次方程式の解法である.
問 次の方程式を解け.
    x2−5x+6=0
解1    x2−5x+6=0
     (x−2)(x−3)=0
     x=2,3

 学校の試験でも,大学の入学試験でもこれだけ書けば満点ということになっているが,問題点がないわけではない.
 「これで満点」というが,それは教育的配慮や慣習によるもので,数学的論理的に完全というわけではない.
  とくに最後の行
         x=2,3
が気になる.この解釈はいろいろある.

 [1] x=2 または x=3
 [2] xは2または3である
 [3] xは2と3である
 [4] 方程式の解は2と3である

[1]は論理的な表現である.pまたはqpq は命題)というかたちをしている.
2数の積が0のときは,一方が0でなければならないから,これは正しい.

 この部分をくわしく書くと,
      (x−2)(x−3)=0
     x−2=0 または x−3=0
     x=2 または x=3
となる.
 この最後の行を,
      x=2 かつ x=3
と書くわけにはいかない.x=2 と x=3が同時に成り立つことはない.
一方,[2]〜[4] は質問者へのメッセージ(回答)である.こう解釈すると,
      x=2,3
は数式的な表現ではなく,メッセージという文章の代用品となってしまう.

 筆者の考えでは,数学の解答というものは,一方で,
    論理的に完結
しており,他方で
    質問者に対するメッセージ
を含むものが望ましい.
 筆者の意図は,これをかたくなに主張することではなく,この気持ちで書かれたものがよい答案になると助言したいのである.

 結論として,筆者の考えでは,解1では内心不満足である.しかし,内心不満足でも決して減点しないから心配はしなくてよい.
 個人的な好みかも知れないが,筆者がよいと思うのは次の解答である.

解2   x2−5x+6=0   
    (x−2)(x−3)=0   
    x=2 または x=3
   答 x=2,3

 この解答では,第3行目で式変形は完結している.
 第4行目は「方程式を解け」という質問に対する回答である.
 第4行は [3] または [4] の意味で書いてある.この「x=2,3」は数式ではないメッセージである.「解は2と3である」と書くのが丁寧であるが,それほど堅苦しくしなくてもよいと思う.

 さて,式変形が「x=2 または x=3」で終わり,答が「解は2と3である」というのでは,ANDとORがごっちゃになっているので困るという人がいるかも知れない.
 じつは,「x=2 または x=3」は論理の世界における表現で,「解は2と3である」は日常会話の世界における表現である.これらはそれぞれの世界でそう表現するのが自然である.
 第3行目を「x=2 かつ x=3」と書いたのでは矛盾である.また答を「解は2または3である」と書いたのでは会話が成り立たない.「『2または3』と言うが本当はどっちなのだ」と怒られてしまう.
 なにごとも,すなおに自然に行きたいものである.