植物の屈性について
要 約
植物の屈性には,茎が光の方に曲がること(正の光屈性)や茎が上方に曲がること(負の重力屈性)などがよく知られている。動物であれば感覚器(目など)が光の向きを感知して進む方向などを決定できるのだが,植物はどのような方法で光の向きや重力の向きを感知しているのだろうか。そんな単純な疑問に対していくつかの実験でその答えを探した。
実験から,植物は「葉」または「芽(茎頂)」で光や重力を感知していると考えたほうが事象をよく説明できるとの結果を得た。
キーワード 屈性 重力 光 茎頂 伸長
1.研究の動機
スーパーマーケットでカイワレダイコンを買ってきて横にして保存したところ,次の日,上を向いて曲がっていた。それを見て,なぜ曲がったのかと不思議に思いインターネットで検索してみたところ,植物の屈性には光や重力が関係していることがわかった。そこで,光屈性と重力屈性について調べることにした。
2.予備実験
植物の取り扱い(発芽,成長などの管理)や温度管理に慣れるため,以下の実験を行った。
(1) 発芽,成長
カイワレダイコンを発芽させるため,当初は水を含んだスポンジにカイワレダイコンの種子を植えた。しかし,発芽はするものの根を張ることができず失敗した。次に,脱脂綿を使用したところ,うまく根を張って成長した。
(2) 伸長部の観察
長さ3cmに成長した茎に油性マジックで等間隔に印をつけて様子を見たところ,茎の茎頂に近い部分が伸びていることがわかった。
図1 伸長部を調べた
3.光屈性
(1) 内容
光屈性とは陰の側の伸長が光に当たっている側の伸長より大きいことで起こる現象である。ここでは,光屈性がどの部位で起こるのか,またどの部分で光を感じているのかについて調べる実験を行った。
(2) 実験の方法
[1] |
カイワレダイコンを育て,ほぼ同じ丈(約4cm)のものを選ぶ。
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[2] |
葉あり・茎頂あり(以下,葉),葉なし・茎頂あり(以下,芽),葉なし・茎頂なし(以下,なし)の三種類を根ありと根なしの2パターン,合計6種(図2)を用意し,実験を行う。
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[3] |
容器に水・脱脂綿を入れたものを6つ用意し,カイワレダイコンをそれぞれさす。
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[4] |
一部に穴の開いた箱をかぶせ,穴からのみ光が入るようにする。
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[5] |
1時間ごとに写真に撮り,屈曲した角度を計測した。 |
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根あり(左から葉・芽・なし) |
根なし(左から葉・芽・なし) |
図2 実験に使用したカイワレダイコン6種 |
(3) 屈曲した角度の求め方
実験開始前の茎の向きを示す直線と屈曲後に茎の先端に接する直線の2つがつくる角を屈曲角度とする。
図3 光屈性による屈曲角度の求め方
(4) データのまとめ方および結果
上記の通り6種のカイワレダイコンを準備し,
合計5回の実験を行った。しかし,実験の時期によって屈曲の反応の差が非常に大きかったため,大きく結果が異なった2つの実験を除いて,同じ傾向がみられた3つの実験の平均をとってデータを整理しグラフ化した。
図4 実験開始からの時間と屈曲角度との関係
(5) 考察
図4・根ありのグラフから,[葉]:葉あり・茎頂ありがよく屈曲しており,[芽]:葉なし・茎頂ありは [葉] には劣るものの,[なし]:葉なし・茎頂なしよりは屈曲していることがわかる。
図4・根なしのグラフから,[葉] と [芽] には大きな違いはみられないが,[なし] は変化が小さいうえ屈曲に時間がかかっていることがわかる。
2つのグラフから,それぞれ [葉]:葉あり・茎頂ありが,屈曲が大きいことがわかり,また,根なしのグラフでは茎頂が残っている [葉]・[芽] と茎頂のない [なし] では角度の変化に大きな違いが見られるため,光屈性に関係しているのは主に葉または茎頂であると考えられる。
次に,図4の2つのグラフを比較すると,根ありと根なしでは,角度の変化に大きな差がある。このことから根も光屈性に関係していると考えることができるが,植物の根を大きく傷つけことが成長や吸水を妨げたとも考えられるので,ここでは結論が出せなかった。
4.重力屈性
(1) 内容
重力屈性は,オーキシンが横にした茎の下側(重力側)へ移動して下側の濃度が高まるために,根では下側の成長が抑制されて正の重力屈性が,茎では下側の成長が促進され負の重力屈性が生じるものと考えられている。
それでは,オーキシンを下側に分配しているのはどの部位なのか,それを調べるために以下の実験を行った。
(2) 実験の方法
[1] |
カイワレダイコンを育て,同じ丈のものを選ぶ。
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[2] |
葉あり・茎頂あり(以下,葉),葉なし・茎頂あり(以下,芽),葉なし・茎頂なし(以下,なし)の三種類を根ありと根なしの2パターン,合計6種(図2)を用意し,実験を行う。
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[3] |
容器に水・脱脂綿を入れたものを6つ用意し,カイワレダイコンをそれぞれさす。
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[4] |
地面と平行になるように設置し,光による影響を受けないように箱をかぶせる。
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[5] |
1時間ごとに写真に撮り,屈曲した角度を計測した。 |
(3) 屈曲した角度の求め方
図5に示したように,光屈性の実験のときと同じ方法で角度を測定する。
図5 重力屈性による屈曲角度の求め方
(4) データのまとめ方および結果
光屈性と同様に6種類のカイワレダイコンを準備し,合計5回の実験を行った。5回の実験はともに同じ傾向がみられたので平均をとってデータを整理しグラフ化した。
図6・根ありのグラフから,最終的な角度に大きな違いは見られないが,屈曲する速さが [葉] , [芽] , [なし] の順に速かったことがわかる。
図6・根なしのグラフから, [葉] , [芽] に大きな違いは見られないが, [なし] は最終的な角度も屈曲する速さも他に劣っていることがわかる。
図6の2つのグラフから根なしで [なし] :葉なし・茎頂なしが明らかに屈曲する速さが遅いことがわかる。それ以外のものには大きな違いはみられなかった。
図6 実験開始からの時間と屈曲角度との関係
(5) 考察
重力屈性について多くの学説があるが,未だどの学説が正しいかは解明されていない。しかし,実験を行う中で,重力屈性は根や葉がある方がより屈曲するということがわかった。それらがない状態でも屈曲するので,カイワレダイコン全体が屈曲に関係しており,特に葉と根がより強く関係していると考えられる。
また,根が重力に対して正の方向に屈曲している状態が見られた。茎だけでなく,根も重力により屈曲を示すことがわかった。
根なし・茎頂なしは光屈性の根なしのものと同様に根や茎を傷つけたために成長が遅れたとも考えられるが詳しいことはわからなかった。
5.光屈性と重力屈性の関係
(1) 内容
光屈性と重力屈性の実験を別々に行ってきたが,光と重力を同時に作用させた場合,「どちらの力が勝るのだろうか」と疑問に思い,以下の実験を行うことにした。
(2) 実験の方法
[1] |
正常に発芽したカイワレダイコンを,図7左図に示すように水平に設置する。 |
[2] |
下方から葉に直接光が当たるように電気スタンドを設置する。光源との距離は,5,10,15cm の3種類とした。
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[3] |
1時間おきに写真を撮り,屈曲の状態を観察する。 |
[4] |
地面と平行になるように設置し,光による影響を受けないように箱をかぶせる。
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[5] |
1時間ごとに写真に撮り,屈曲した角度を計測した。 |
(3) 予想
光屈性と重力屈性について調べているときに先生から興味深い話を耳にした。「光屈性による屈曲は元の状態に戻すことができるが,重力屈性による屈曲は戻すことはできない。一度重力屈性による屈曲が起こると,次の屈曲はまた別のところで起こる。」
このことから,重力の方がより強い力をカイワレダイコンに与えていると考え,光屈性と重力屈性の実験を同時に行えば,重力屈性が勝って上方に曲がると予想をたてた。
(4) 結果および考察
図7・右図中央のカイワレダイコンは,実験開始直後より上方に屈曲した(負の重力屈性を示した)。しかし,実験開始後2時間ほどすると下方に屈曲しだした(正の光屈性を示した)。最終的には,ほぼ鉛直下向きにまで屈曲した。
図7・右図一番上のカイワレダイコンは,中央のものと同様な変化をしたが,最終的にはほぼ水平になった。また,一番下のものは実験開始直後から下向きに屈曲した。 以上のことから,カイワレダイコンに重力と光の刺激が同時に与えられた場合,反応の早さに差があり,最初に重力に反応して負の重力屈性を示し,その後に光に反応して光屈性を示しているようである。また,重力屈性が勝つか光屈性が勝つかは,光の強さによって結果が違ってくるようである。
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左図・実験開始時 |
右図・開始7時間後 |
図7 光屈性と重力屈性の関係
(図の下側から光を当てて実験した) |
今回の課題研究では,どの程度の光で光屈性をおこすか,また,どんな種類の光,どんな波長の光が有効かまでは調べることができなかった。今後,この点について調べてみてもおもしろいと思った。
6.おわりに
この課題研究で行った実験を通して,植物の屈性には葉,茎頂,根が深く関係しているということがわかった。
私たちは実際に生きているもの「生物」をあつかった実験のため,成長具合が良くなかったり,季節が変わるにつれて温度管理がうまくいかなかったり,予想したようにいかず何度も苦労した。
朝に実験を始め,休憩の度に写真を撮るため走り,放課後に後片付けをする。より正確なデータを得るために膨大な時間を要した。違う観点から実験をしてみたいという思いがあったが,時間の都合でかなわなかったのは残念だった。しかし,最終的になんとか実験結果を形にすることができて良かった。この課題研究で得た知識と経験と我慢する忍耐力を今後に生かして頑張っていきたいと思う。
参考文献 松田仁志:植物の観察と実験を楽しむ-光と植物の暮らし-(2004年),裳華房
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