1.はじめに
筆者は平成12年4月に茨城県立水戸第一高等学校から現在校に転勤したが,水戸一高では多くの生徒実験,演示実験を行い,実験,観察を中心に据えた授業を行っている.
この小稿では水戸一高で実施している生徒実験,演示実験を紹介し,また,いくつかの実験について概略を紹介する.
2 実施している実験
水戸一高では2学年で生徒全員が物理を履修し,力と運動から音波までを学習する.また,波動の式を明確にするため,円運動,単振動を学習してから波動の分野に進む.2年で行う生徒実験は以下のとおりである.なお( )は次の項で概略を述べる実験である.
・斜面を下る台車の運動
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・力と加速度(3-1)
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・質量と加速度(3-1)
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・運動量保存
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・エネルギーと熱(熱の仕事当量)
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・円運動
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・単振動
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・弦の定常波と気柱共鳴
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演示実験は以下のとおりである.
・天井からつり下げた滑車を使って自分を引き上げる
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・等速直線運動と力(3-1)
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・質量とは(3-1)
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・台車とおもりの運動方程式
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・運動量の保存
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・水ロケットの打ち上げ
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・仕事と運動エネルギー
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・エネルギー保存
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・力学的エネルギーの保存
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・波の反射,干渉,定常波
(ウェーブマシン)
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・球面波の干渉
(水波投影装置,水と灯油の境界面での波)
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・クインケ管の実験(3-2)
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・クントの実験
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3年では理系の生徒だけが物理を履修し,物理TBの残りの分野と物理Uを学習する.3年で行う生徒実験は
・ヤングの実験,回折格子(3-3)
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・等電位線
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・コンデンサーの接続
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・コンデンサーのスイッチ回路
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・電池の内部抵抗
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・ホイートストンブリッジ
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・交流のRL接続
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演示実験は次のとおりである.
・光の分散,スペクトル,輝線スペクトルと吸収スペクトル(3-4)
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・薄膜の干渉(シャボン膜の観察など)
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・圧気発火,断熱膨張による霧の発生
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・静電気の実験(ハミルトンの風車,起電盆など)
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・静電誘導
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・静電遮蔽
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・電流がつくる磁界の観察,平行電流の力
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・電磁誘導
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・自己誘導,相互誘導
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・交流の位相の変化
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・共振,電気振動
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・光電効果(はく検電気を使って)
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3 実験の概要
2に示した実験の大多数は,平成6年まで水戸一高に勤務された綿引隆文先生(現在は茨城県立那珂高等学校に勤務)が始められたものであるが,ここでは先生が大切にされている慣性概念を指導する実験と,筆者が自作した実験装置を用いるいくつかの実験を紹介したい.
(1)慣性についての実験
物理において力学はもっとも大切な分野であり,力学の根幹をなすのが運動方程式である.運動方程式f=maのなかのm,すなわち質量の役割について,十分な指導がなされていないように思う.綿引先生は,力と運動について生徒が持つ誤った先入観を巧みに解きほぐし,正しい慣性概念に導く授業のプログラムをつくられた.筆者らもこれらを引き継ぎ,実践してきた.4時間をあてて次のように授業を展開する.
1時間目の「等速直線運動と力」は演示を中心とした討論の授業である.エアートラックの運動を見せたり,力学台車に外力を加えたときの運動を予測させるなどして,等速度運動をしている物体には外力が働いていないことに気づかせる.授業の最後にはエアーパックを滑走させ,物体に動き続けようとする慣性があることを体験させる.写真は筆者が自作したエアーパックである.使い終わった携帯コンロ用のガス缶に空気を圧入して滑走させる.2時間目は,台車を一定の力で引く生徒実験である.
3時間目は物体が質量に比例した慣性を持つことを学ぶ授業である.1時間目同様,演示実験を見ながら予測し,討論をする.4時間目には,台車とおもりの質量を変えて一定の力で引く生徒実験を行う.
(2)クインケ管の実験
光波の授業ではヤングの実験,回折格子,薄膜の干渉など,光の経路差による干渉が大きなウェイトを占めている.経路差による干渉は,2つの球面波の干渉として,水面波を例として学習する.しかし,これは経路差が明確でないばかりか,強めあっている,あるいは弱めあっているという事実が見えづらい.
クインケ管は古くからある実験装置であるが,経路が明確であり,管の長さを変えることで音が消え,経路差による干渉が大変明快に示せる.ただ,市販品は管の径が小さく,音を一人の生徒のみが聞くことになる.
そこで,クラスの生徒全員が干渉を聞ける大型のクインケ管と密閉音源を自作して授業で活用している.クインケ管の製作にあたっては,茨城県立境高校の岡野道也先生に助言をいただいた.写真は平成3年度から授業で使ってきた装置である.下部の立方体が密閉音源である.
(3)ヤングの実験,回折格子による光の分散
ヤングの実験は,レーザー光源と市販されている複スリットを使うと,いとも簡単に観察できてしまう.筆者はヤングが見た縞模様を生徒に見せたいと考え,あれこれ試行錯誤するうちに,スライドプロジェクターと市販品の複スリットを用いることで,白色光による縞模様を観察することができた.さらに,岡野先生が作られた簡易光源装置を使って観察できることがわかったため,簡易光源装置を12個製作し,生徒実験として行うようにした.
実験では明線の位置から波長を求めさせる.また,ホログラムシートなどの商品名で売られているシートで,回折格子による光の分散を観察させ,また赤い光の波長を与えて格子定数を求めさせる.
(4)輝線スペクトル,吸収スペクトル
輝線スペクトルはスペクトル管やナトリウムの炎色反応,あるいは蛍光灯の光のなかで観察でき,そう珍しいものではない.しかし,輝線と同じ波長の光を吸収することは,不思議に満ちた現象であるように思う.写真のような装置を使って,クラスの生徒全員に見せることができるようになった.
また,この装置を使うと太陽光のフラウンホーファー線も観察できる.さらに,新しいタイプの蛍光灯管(3波長型)の内部にふくまれる物質を,探究学習的に指導することができる.データ(輝線の色,位置)を生徒全員と指導者が共有できるからである.
4 おわりに
理科嫌い,理科離れという言葉をよく耳にするが,水戸一高では文系に進む生徒も実験を楽しんでいる.物理を実施していない高校も増え,また,受験のため,実験をせずに講義と問題演習だけという学校も多いと聞く.IT革命という言葉を待つまでもなく,技術なしに日本の将来があり得ないことは明らかであろう.僭越ではあるが,実験,観察が理科教育の原点であることを訴えたく,前任校の授業実践を報告させていただいた. |