課題学習の指導
−ピックの定理−
新潟県新発田市立第一中学校
船山 誠
1.はじめに
 他の人はともあれ,私にはオリジナリティーも創造性もない。畢竟(ひっきょう),何とか形のある授業をしようと思うと,先達の立派な実践を真似することに終始する。もちろん,素晴らしい先輩の授業を忠実に真似することはできない。大概は思惑はずれの流れになることが多い。今回紹介する実践も大いなる失敗であった。しかし,自分としては,このような失敗を繰り返して,どんどん人真似をすることで,生徒が数学の面白さや楽しさを味わえるようにしたいと考えている。

2.単元名 「変化と対応」(第1学年)

3.教材観
 
(1) 単元について
 金子 博(1982)は,「表,グラフ,式を用いて関数関係を表すというとき,これらを並列的に扱ったり,別々のものとして扱ったりするのではなく,一つの関数関係について表,グラフ,式による表し方が一体となって理解されなければならない」と述べているように,関数の学習で中心となるのは,あくまでも関数関係であり,これを表,グラフ,式という窓から総合的に学習することが大切である。
 ところで,関数学習における導入はいかにあるべきか,という問題を金子は,次のように論じている。
 「まず何よりも,事象を考察する上で関数概念が必要であることを実感させることである」として,次のように現在の指導の在り方を批判している。
 (関数関係を未知・既知で分類したもの)
       
1)  4)
       
2)  5)
       
3)  6)

 x:独立変数 y:従属変数 f:関数

 「教科書に出ている事象のほとんどは上図の4),5),6)であり,関数概念の必要性を納得させることは難しい。そこで,1),2),3)のタイプの事象を取り上げ,ひそんでいる関数関係を見つけ出し,それによって,事象を合理的に考察させる体験をさせたり,さらにx→yへの方向性(〜がきまるとそれにともなって〜がきまる)を明確に把握させたいと考えた」。金子が述べているように,従来の関数学習の導入では,関数概念の必要性を感じさせることは難しいと思う。そこで,金子の実践を追試することで,その問題点や指導のよさを見つけていきたいと考えている。


(2)

 教材と生徒
 「授業改善の方途をさぐる(その2)」(平成5年)によると,全国平均と比べて「数と式」領域の得点は高いが,「数量関係」の得点は低い。特に,第2学年,第3学年の「ともなって変わる2つの数量関係を式に表す問題の正答率は低く,無答率が共に30%を越えている」。
 特に,1年「ともなって変わる量」(91),2年「比例・反比例」(96)が,低い成績であった。

4.指導計画
 1) ともなって変わる量・・・3(本時2/3)
 2) 正比例・・・
 3) 正比例のグラフ・・・
 4) 反比例とそのグラフ・・・
 5) 復習問題・・・

5.本時の指導
 
(1) 本時のねらい
 点の数と面積との関係を見つけることができる。
(2) 展 開

【前時の指導】
次の図形の面積を求めなさい。

高さがわからないから出せないよ。
底辺ってどこなんだろう。
今までのやり方では出せないんだね。


どのような工夫をすれば面積を出せるのだろうか。

上の図を用いて,ひき算やたし算で面積を求める。


前の方法を参考にして次の図形の面積を求めよう。

図形を分割して面積を求める。

【本時の指導】
前の時間の方法を参考にして,次の図形の面積を出そう。



実は,もっとずっと簡単な面積の出し方を発見した人がいます。その方法は,思いがけないところに注目した方法です。どんなところに注目した,どんな方法だと思いますか。



誰も見当がつかないようなので(上のプリントを配布して),これらの図形を比較しながら,何が面積と関係ありそうか考えてください。


(格子)点の数が,面積に関係ありそうだ。
面積0.5の図形は,全部,点の数が3だ。
面積1の図形は,点の数が4だ。
面積1.5の図形は,中に点がないと5で,中に点が1つ入っていると3だ。
面積2の図形は,中に点がないと6で,中に1つ点が入ると4だ。


中の点が1つの場合にだけ注目して,面積との関係を調べてみましょう。
下のような表をもとに,面積の関係を調べる生徒が出てくる。

(中の点なしの場合)
辺上の点の数
面   積0.51.5

(中の点1つの場合)
辺上の点の数
面   積1.52.5



わかった!(点の数)÷2で出るんだ!
「わかった!」という声を聞きつけて,ざわざわと動き始める。
中の点が1つの場合は,面積=(辺上の点の数)÷2です。
なる。なる。へー,すごいね。
では,中の点が0の場合はどうなるのでしょうか。また,中の点が2個,3個の場合はどうなるのでしょうか。

6.結果と考察

 授業は,金子の実践よりもはるかに速く進んでしまった。特に急いで進んだ訳ではなく,生徒の反応が予想よりもはるかに速かったからである。しかし,それ故,十分な準備ができないまま授業を進めていた感が強く,特に「できる子」のペースで授業が展開されていたことが反省点である。また,わかったことを共有するための指導が十分ではなかった。さらに,点と面積との関係を導き出すための有効な援助や支援の仕方を一層工夫しなければならない,と感じた。しかし,生徒の反応は素晴らしく,当初予想していたことをはるかに超えて,どんどんと意欲的に自分たちで学習を進めていく姿が多く見られた。授業中には「わかった!」という声が響き,授業後には「面白かった」という声が自然と出てきていた。
 数学においては,特に課題自体が持っている「面白さ」や「美しさ」を重視すべきである。
 教師は,「面白い」と感じさせる課題を多く持つべきである。そのためにも,大いに真似をすべきである。やってみなければわからない面白さや難しさがよく見えてくる。これを繰り返すことで,他人のものが自分のものとして消化されていき,生徒に還元される。

 【引用文献】
金子 博 数学を創り上げる力−生徒の頭の中に,数学的アイデアのもとがある−
明治図書 1982
文部省 数学科指導書 1989
新潟県中教研 授業改善の方途をさぐる(その2) 1993年10月

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