授業実践記録

立体を分類して,その成り立ちを探ろう(「空間図形」)
福井大学教育地域科学部附属中学校
大正 秀哉

1.はじめに

 教科書では,1年生の最後に学習する図形領域の「平面図形」「空間図形」を,本校では中学校に入学して最初に学習する。これは,下記の理由による。

1 小学校から移行された内容が多いことから,学習に連続性ができる。
2 操作・観察など具体物を対象とした目に見える活動がともなうために,相互に考えを「伝え合う」ことで思考を進めやすい。その後の,学習でも「伝え合う」ことの必然性を感じられると思われる。
3 図形概念を構築することによって,その後の文字式や方程式,関数の学習でも図形を通して扱っていくことができる。

 文字式の学習前のため,円周率を用いた計算など計量の内容は扱わないで,平面図形や立体の構成と位置関係の把握などについての内容を中心に学習する。知識を得たり計算したりすることよりも,いろいろな図形を考察する観点や方法を知り,図形的な表現力,直観力,洞察力を育成することが重要であると考える。


2.単元のねらい  (数学の学力(3次元)の観点から)本校数学科

【数学的推論】
立体がどのように構成されているのかをいろいろな視点でとらえることができる。
平面図形を発展させた図形として空間図形をとらえ,その関係を探ることができる。

【数学的コミュニケーション】
基本的な立体について,目的にあった表現でその形を相手に伝えることができる。
立体を分類して,それを構成している視点を多様な角度から表現することができる。

【数学的知識】
空間図形を平面図形の運動によって構成されたものとみることができる。
空間における直線や平面の位置関係について把握することができる。


3.展開構想

 下記のことをふまえて単元を展開する。

(1) 「見た形を人に伝える」ことにより,学び(コミュニティ)の必然性を生む
(2) 実際に基本的な立体を作ることにより,立体の概念を具現化し再構成する
(3) 作った立体を分類することにより,立体を構成している視点を多面的に振り返る


4.学習展開例

学習の流れと内容
学 習 活 動 (計画と実際)
身の回りにある立体を人に伝える
 条件の把握
伝えられた言葉から立体をイメージする
身の回りにはどんな立体があるか(単純な形)を見つける
 
身の回りにある立体を言葉で学級全員に伝える
伝える言葉は5つ程度として,使う言葉の約束事は下記のとおりとする
※使ってもよい言葉: 面の形(三角形,正方形等),辺,頂点など,中学校の平面図形で学習した言葉
その他,日常的に使われている言葉
※使ってはいけない言葉: 具体物として形容する言葉(例:プリンのような形)

1 聞き手は自分のイメージした図形を見取図にかく(三角錐)
2 見取図でかくことが難しいので粘土で作る(コンデンスミルクの容器)
(聞き手の質問で567が追加される)
<コンデンスミルクの容器を左の条件から作っている様子>
     


特徴を伝える,伝えられた言葉から材料を決めて立体を作る
基本的な立体図形について,その特徴を人に伝え,聞き手は粘土,竹ひご,厚紙を利用して実際に作る(ただし,2種類以上の材料を使う)
 
特徴は紙に5項目かき,聞き手側に質問があれば口頭で情報を交換する
紙にかく特徴の5項目は,前時の約束事と同様で,形を図で表してはいけない
 
 
<左の条件から粘土,竹ひご,厚紙の中の2種類以上を使って作っている各班の立体>
 
<ある班のできあがった立体>


形を伝える多面的な見方の共有
伝えた特徴(5項目)と,作った立体を提示して,どんな観点で伝えていたかを振り返る
クリックすると拡大表示されます。
<伝えた5項目は教室掲示し,分類のための支援をする>
  構成する観点に気づくための支援
グループごとに作った立体をもとにして,作るときに伝えた観点を利用したり,それを発展させたりして仲間分けをする
それぞれの立体の特徴をまとめ,ネーミングをする
同じ分類で,別のネーミングができないかを考察する
クリックすると拡大表示されます。 クリックすると拡大表示されます。
    <ある班が分類した2種類の視点>
   
分類された立体について,基本的な用語をおさえながら仲間分けを整理する
柱体と錐体・回転体・正多面体など

<多面体をおさえ,八面体の名前をつける>

<構成する観点の例>
【構成要素の数】 頂点・辺・面・底面の数
【位置関係】 平行(垂直)な辺・面,底面に垂直な辺・面
【投影図】 真上から見る,正面から見る,横から見る
【立体の構成】 形体,線・面を動かして(回転して)できる
【切断】 底面(回転の軸)に平行・垂直に切る
【展開図】 底面の形,側面の形,切り開いた形
位置関係の体系化
位置関係について,空間に拡張してとらえる
平面と平面,平面と直線,直線と直線
具体物への働きかけと振り返り
身近な立体について,それを紹介するレポートを作成し,紹介する
形そのものが複雑な形は選ばない,大きさは自由,二つを比較してもよい
表に紹介文,裏に見取図か写真を貼り印刷,紹介して,お互いに講評を書く

<参考文献> 福井大学教育地域科学部附属中学校 研究紀要 第31号(平成15年)
青山 庸 「問題を発展的に扱う数学科の指導」 東洋館出版社

 

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