『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』(以下,「学習指導要領」と表記)が示すところによって,学習内容の構成や配列に変更がなされた。今回,本寄稿の機会を得,これまでの授業実践の中で,生徒が積極的・自主的に授業へ取り組むことができた内容を勉強の機会としてまとめることとした。特に,学習指導要領において「改善・充実した主な内容」「移行した主な内容」の[第2分野]について,今回注目して取り組んだ実践内容は,下枠に示すものである。
・第1学年において,生物の分類の仕方に関する内容を扱うこと。
・動物の体の共通点と相違点
・生物の種類の多様性と進化
生物の分類に力点を置いて実践に取り組んだ理由は,第一学年の学習において「いろいろな生物とその共通点」が教科書の最初の章にあることである。中学校に入学して,最初に出会う理科の学習の内容であること,今,求められる主体的・対話的で深い学びの実現に近づけるのではないかと考えたからである。
経験的な私見であるが,中学校へ入学したばかりの生徒は,理科の学習は“記憶”を中心とした学習であると考えている生徒が多いように感じている。そこから,得た情報を基にして他者と議論することを通して理解を深めていくといった学習の在り方を,中学校での理科の学習の進め方の基本として教えていくということに適していると考えたからである。生物の分類については,「食虫植物は,本当に植物か?(捕食するのならば,動物なのではないか?)」「サンゴは植物か,動物か?」などを学習課題に議論させるといったことを実践してきた。しかし,この学習課題については第一学年では難しいと考え,本寄稿の内容での実践を行なった。具体的な実践内容については後述するとして,「食虫植物は,本当に植物か?(捕食するのならば,動物なのではないか?)」「サンゴは植物か,動物か?」の学習課題が第一学年で難しいと考えた理由をまず述べさせていただき,第一学年で行なった分類の学習の授業記録について記述させていただく。
まず,これまで何度か実践してきた「食虫植物は,本当に植物か?(捕食するのならば,動物なのではないか?)」「サンゴは植物か,動物か?」の学習課題を,第一学年で選択しなかったことについて述べさせていただく。
以前は,動物の分類の応用課題として,この学習課題に取り組んできた。植物の体のつくりに基づく学習を終え,動物の体のつくりに基づく学習後に,食虫植物やサンゴについての情報を与え議論させてきた。ここでは,現在の外部形態による分類に加え,体のつくりと各器官の働きや動物の生命活動の維持とを関連付けていく学習を終えての課題としてきた。これは,現行の観察,実験などを行い,いろいろな生物の特徴を見出し,生物の外部形態からの共通点や相違点を基にして分類できることを理解させることをねらいとする趣旨から考えると,適しているとは言い難い。そこで,学習指導要領の「第2分野の内容 ⑴いろいろな生物とその共通点」に示されるように,“観点”や“基準”といった学習に力点を置いた学習課題を提示することが大切だと考えた。
学習課題を提示する際に一番,課題になったことは“観点”“基準”といった“言葉の理解”である。教科書にも記述はあるが,生徒は思った以上に難しく感じるようである。そこで,まず植物の分類の学習において,“観点”“基準”といったことをしっかりとおさえ,動物の分類において外部形態からの共通点・相違点に基づいた分類を考えさせる学習課題を課すことにした。本校は,自然豊かな地域にあり,植物も動物も種類の豊かな場所で,校地内も生物の観察,特に植物の観察に適していることから,植物の分類の学習において基礎的な見方・考え方をおさえ,動物の分類の学習において学習課題を課すこととした。
さらに,私自身は理科の学習を進めるにあたって,今から学習する分野・領域での科学者の功績や,科学史について導入として中学生に理解できる範囲で,エピソード的な側面は強いができるだけ知らせるようにしている。それは,科学史が思考の展開にもつながると考えているからである。植物の分類については,紹介程度の簡単な分類学の歴史や,“分類学の父”と称せられるカール・フォン・リンネの功績と人物像について紹介してから学習を始めた。
生徒が提出したレポートを数点,ここに紹介する。
この資料は,数年間,同じ学習課題に取り組んだものを例示として配布したものである。学習課題に取り組み始める時には,もちろん掲示することはなく,提出段階になった時に過去の例として掲示した。
レポートの作成に条件としたことは,自分で“観点”を定め,“基準”を明確にすることである。また,外部形態に基づいた分類を行うという学習課題であることから,写真資料を中心に調べることを可とした。
北九州市が作成している『スタンダードカリキュラム 理科』では,動物の特徴と分類については,以下の表のように示されている。
北九州スタンダード・カリキュラム
《いろいろな生物とその共通点 2 動物の特徴と分類》より
| 目標 |
身近な動物の外部形態の観察を行い,その観察記録などに基づいて共通点や相違点があることを見いださせ,動物の体の基本的なつくりを理解させる。また,その共通点や相違点に基づいて,動物が分類できることを見いださせ,理解させる。 動物に対する興味をもたせ,動物を観察する時に,どのような点に注目すればよいかを考える力を身に付けさせる。 |
|
|---|---|---|
| 観点別 評価規準 |
知識・技能 | いろいろな動物の共通点と相違点に着目しながら,動物の体の共通点と相違点についての基本的な概念や原理・法則などを理解していると共に,科学的に探究するために必要な観察,実験などに関する基本操作や記録などの基本的な技能を身に付けている。 |
| 思考・判断・表現 | 動物の体の共通点と相違点についての観察,実験などを通して,いろいろな動物の共通点や相違点を見いだすと共に,動物を分類するための観点や基準を見いだして表現しているなど,科学的に探究している。 | |
| 主体的に学習に 取り組む態度 |
動物の体の共通点や相違点に関する事物・現象に進んでかかわり,見通しをもったりふり返ったりするなど,科学的に探究しようとしている。 | |
ここに提示したレポートについては,『北九州スタンダードカリキュラム』から
【知識・技能】
〇設定した“基準”を基にして分類できているか。
【思考・判断・表現】
〇“観点”が明記されているか。・・・・「動き方(移動方法)」「皮膚の違い」など
【主体的に学習に取り組む態度】
〇GIGA端末を用いての資料収集が適切にできているか。
について評価していった。
指導と評価の一体化については,従前より言われているところではあるが,どのような学習課題を設定することが,より適しているのか,どのような資料の提示の仕方が,この領域に適しているかをさらに検討していくことが,教師側の課題である。
本レポート作成を通して,物事を考える上では“観点”や“基準”を明確にすることが大切であること且つ,理解を明解にすることを示すことができた。勿論,全ての生徒が“観点”や“基準”を明確にしてレポートを作成できたわけではなく,間違った分け方をした生徒もいるため,資料の提示の仕方や課題として分類させる動物をもっと外部形態から分類しやすい又は資料を提示しやすいものにするなどの工夫が必要であるとの反省はある。また,GIGA端末を用いて調べる生徒もいたため,掲載した資料の中には「心臓のつくり」を観点として分類した生徒もいた。この生徒について,その意味では,この学習課題のレポートは“観点”の設定という部分で評価は「C」とした。
本寄稿の授業との直接的関わりと少し論点がずれるかもしれないが,理科の学習を進めるにあたって経験的な私見としてここに記述させていただいて結びとさせていただく。
理科の学習を進めるにあたっては,理科の目標に定められているように,自然の事物・現象に関わり,理科の見方・考え方を働かせること,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を育成するために,知識・技能の習得や活用ができるようになること,思考・判断・表現する力を育成すること,主体的に学習に取り組む態度の育成することなどを目指すために,どのような指導の工夫・改善をすればよいのか悩む日々を数十年と過ごしてきた。未だに明確な解答を手にすることができていない勉強不足を痛感している。しかし,そんな中で,少し思うようになってきたのが,生徒同士で話し合う・教え合うといった機会を増やすこと,ゲーム性・競争的な要素をもった学習課題などを設定することができれば,授業へ取り組む姿勢や熱意が変わってくる傾向が年々増加しているように感じている。これまでの指導法に固執することなく,自分自身が柔軟に学ぶ姿勢を崩さないようにしていきたいと,自分への奮起として言い聞かせていきたい。