この単元では音に関連した身近な物理現象について観察・実験を行い,それらについての理解を深めるとともに,身近な物理現象に対する生徒の興味・関心を高めることがねらいである。音に関する学習は,小学校では,第3学年で物体から音が出たり伝わったりするとき,物体は震えていること,音の大きさが変わると物体の震え方が変わることについて学習している。しかし,これらの学習で行われる実験などは,主に定性的な実験を主体として行われる。音の「大きさ」については,既習の学習内容や生活の経験を基に「発音体の振動の大きさ(振幅)」が関係していることには,比較的気づきやすい傾向にある。しかし,「音の高さ」については,音源の種類によって高さを変えることのできる方法が複数存在する。そのため,「発音体の振動の回数(振動数)が音の高さを変える」ことを理解しても,その方法と振動数の変化を関係づけることは難しいと考えた。
また,「音」という現象が日々の生活の中で非常に身近なものであるがゆえに,その性質や特徴について深く考える機会は必ずしも多いとは言えない。『振動数が増加すると音は高くなる』『振動数が減少すると音は低くなる』ということを,知識として暗記することに留まる生徒が多く,振動と音を関係づけて捉え,日常の音による現象に当てはめて考えられるように理解することに難しさがあると感じる。音の現象についての科学的な認識を深めていくことは,日常生活をより豊かなものにするためにも重要である。 そこで,発音体として『グラスハープ』を題材とした探究的な学習を行うことで,音による現象を生徒が本質的に理解できると考えた。また,目に見えない自然の現象でも,協働的に学習を進めながら様々な試行錯誤を経て検証することで理解できるという実感を生徒が抱き,生徒の更なる探究的な学習の充実につなげることができると考え,実践した。
図1 グラスハープで音を発生させている様子(水面が振動しているのが確認できる)
本実践で用いるグラスハープは,グラスのふちを指で擦って音を発生させることで楽器として用いるものである。(図1) 今回,グラスハープを教材として用いた理由は,次の通りである。
図2 オシロスコープで観察した正弦波の様子
グラスハープは見た目も美しく,非常に奇麗な音色を発するので,生徒の興味を引きやすく,学習意欲を高める効果が狙える。また,ワイングラスという比較的身近な道具を用いて音を出せるという事実も,生徒の関心を引き付けることにつながる。
なお,今回は「音の高さ」に焦点を絞った実験であったため,グラスハープを教材として用いることが有効と判断したが,「音の大きさ」についてはモノコードと比較して調整が難しいため,グラスハープの使用がデメリットとなることに留意する必要がある。
JST(科学技術振興機構)が過去に運営していたサイト「理科ねっとわーく」(現在はサービス終了)にて配布されていた,「振駆郎」というオシロスコープソフトウェアを本実践で活用した。「振駆郎」の機能,及び用いた理由については,次のとおりである。
図3 振駆郎で録音した音の波形を表示させている様子
-「振駆郎」の機能-
ソフトウェアをオンラインプラットフォーム(本実践ではMicrosoft Teamsを使用)等で配布すれば,生徒の端末にオシロスコープソフトが導入できることになる。すなわち「一人一台オシロスコープを所持している」状況を作ることができ,各生徒が自分のペースで音の波形や周波数を観察できるようになる。
各自の端末にデータを保存し,後で見直したり,クラスメイトと共有したりすることが容易になる。また,考察を行う際の根拠として示す資料等にもなり,生徒の思考活動を促進することにもつながる。
図4 ピンマイク
振駆郎はタブレット本体のマイクを用いて集音することができるが,今回はより集音性を高めるため,100円均一ショップのピンマイクを使用した。(図4)ワイングラス同様,安価であるため数が容易に揃えやすい。また,タブレットの内臓マイクを使う場合よりも集音性が上がったため,他のクラスメイトが行う実験で発生した音や環境音をノイズとして拾うことも減った。これにより,波形の視認性が向上し,学習を進めやすくなった。
本学級の生徒は,理科の授業に意欲的に取り組むことができている。身のまわりの事象についても興味・関心を示し,観察や実験では自分なりの予想や仮説を立てることや,得られた結果について自分なりに解釈し,積極的に説明しようとする生徒も多い。しかし,説明する内容については漠然とした抽象的なものが多く,また,既習の学習内容や経験などを関連づけて考えることについてはまだまだ課題がある。探究的な学習を円滑に,かつ繰り返し実施していくためには,探究の過程の中で見出した仮説や結果,分析データなどを論理的な思考に基づいて関係づけていくことが必要である。身近な事象から課題を見出し,論理的に思考する場面を伴う授業を進めていく必要があると考え,この単元を設定した。
本単元では音に関連した身近な物理現象について観察・実験を行い,それらについての理解を深めるとともに,身近な物理現象に対する生徒の興味・関心を高めることがねらいである。「音」という現象は,日々の生活の中で非常に身近な現象であるがゆえに,その性質や特徴について深く考える機会は必ずしも多いとは言えない。音の現象についての科学的な認識を深めていくことは,日常生活をより豊かなものにするためにも重要である。
小学校では,第3学年で物体から音が出たり伝わったりするとき,物体は震えていること,音の大きさが変わると物体の震え方が変わることについて学習している。しかし,これらの学習で行われる実験などは,定性的な実験を主体として行われる。音の「大きさ」については,既習の学習内容や経験を基に「発音体の振動の大きさ(振幅)」が関係していることには気づきやすいと考えた。しかし,「音の高さ」については,音源の種類によって高さを変えることのできる方法が複数存在する。そのため,「発音体の振動の回数(振動数)が音の高さを変える」ことを理解しても,その方法と振動数の変化を関係づけることは難しいと考える。『振動数が大きくなると音は高くなる』『振幅が大きくなると音は大きくなる』ことを,知識として暗記するにとどまる生徒が多く,振動と音を関係づけて捉え,日常の音による現象に当てはめて考えられるように理解することに難しさがあると感じる。そこで,発音体として『グラスハープ』を題材とし探究的な学習を行うことで,音による現象を生徒が本質的に理解できると考えた。また,目に見えない自然の現象でも,協働的に学習を進めながら様々な試行錯誤を経て検証することで理解できるという実感を生徒が抱き,生徒の更なる探究的な学習の充実につなげることができると考え,本単元を設定した。
| 知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
|---|---|---|
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| 時間 | ねらい・学習活動 | 重点 | 記録 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 1 |
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思 | 〇 |
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| 2 |
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思 知 |
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| 3 |
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知 |
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| 4 |
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知 態 |
〇 |
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| 5 |
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態 思 |
〇 | 詳細については次項で述べる。
態Ⅱ思Ⅲ |
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グラスハープの音の高さを変化させる方法について,仮説を立てる。 |
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仮説を検証するための計画を立てる。 |
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計画に則ってグラスハープの音の高さが変化する方法について調べ,音の高さが変わる方法と,振動数の変化がどのように関連しているのかについて考察・推論を行う。 |
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グラスハープの音の高さを変化させる方法と,振動数の変化との関連について考察したことを発表し,他の楽器についても音の高さを変える方法と振動数の変化との因果関係について考える。 |
※①~④の過程を経ることで,グラスハープの音の高さを変えた方法が,振動数にどのように影響を与えて音の高さを変えることにつながったのかについて,さらに深く考察していくことを目指す。このことは,本時に取り上げた楽器や音源以外の音の高さを変化させる方法についても,自ら進んで考えようとすることにつながる。
音の高さの違いを振動数の違いと関係づけ,グラスハープの音の高さを変える方法がどのように影響を与えて音の高さを変えることにつながったのかについて探究しようとすることができる。
| 過程 | 学習活動や生徒の反応・様子など T:教師,S:生徒 |
指導上の留意点と評価 |
|---|---|---|
| ①課題 ・ 仮説の設定 |
1 前時の学習内容について振り返る。 T:「音の大きさや高さに影響を与えるものは何だったかな?」 S:「音の大きさには振幅が関係していて,音の高さには振動数が関係している」 |
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2 グラスハープの音が鳴る原理について理解し,音の高さを変化させる方法について仮説を立てる。 S:1で振り返った知識をもとに,グラスハープの音の高さを変化させる方法について仮説を立てている。 |
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グラスハープの振動数は,なぜ変化するのだろう? |
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| ②計画 |
3 仮説を検証するための計画を立てる。 S:検証において,実験の条件を適切に制御することを考えながら計画を立てている。 |
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| ③検証 ・ 考察 |
4 計画に従って検証を行い,グラスハープの音の高さを変化させる方法について調べる。 S:実験方法の条件を制御しながら,適切な形で実験結果を得ようとしている。 |
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5 音の高さを変化させる方法と,振動数の変化との間の因果関係について考察する。 S:実験操作の条件を制御しながら,適切な形で実験結果を得ようとしている。 |
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| ④まとめ ・ 発表 |
6 考察した因果関係について発表しあい,共有する。 S:自分たちの考察内容と,他の班の考察内容との間,どのような共通点や相違点があるのかについて確認している。 |
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7 共有した考察をもとに,他の楽器や音源の音の高さを変化させる方法についても考察する。 S:グラスハープの例をもとにしながら,音の高さを変化させる方法と振動数との因果関係について更に考察しようとしている。 |
【評価】 態Ⅱ ワークシート,行動観察 |
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態Ⅱ
| 「十分満足できる」状況(A)にあると判断される具体的な例 | 音の高さの違いを振動数の違いと関係づけ,グラスハープの音の高さを変える方法が,どのように影響を与えて音の高さを変えることにつながったのか,因果関係の解明に向けて粘り強く取り組むことができる。 |
この授業の前時段階で生徒は,「音の大きさは振幅が,音の高さは振動数が関係している」ことをすでに学習している。したがってこの時間は,「グラスに行った操作(水量,グラスの大きさの変化)」という原因と,「振動数が変化した」という結果の間にある因果関係について,既習事項や今までの経験などを活用して探究することをねらいとしている。(以下,公開授業の様子)
本実践は,所属校で開催された「鳴門教育大学附属中学校 第67回研究発表会(令和6年5月31日開催)」の中で公開した。公開授業後の授業研究会では,「2.使用教材について」で述べたように,この教材を用いた意図や,実際の授業の様子等について多くの先生方に好意的なご意見をいただけた。しかし,グラスハープに行った操作と振動数の変化の因果関係を厳密に説明するとなると,固有振動数の話題に触れる必要があるのではないか,そうなると中学生が扱う問題として難易度は適切と言えるのか,といったご意見もいただいた。厳密な話をするときりがないため,どこまでの内容で結論づけさせるかということも,この実践を行う上での今後の課題である。
本実践では,「探究的な学習の充実」を目指して,生徒には理科における探究の過程を意識して授業に取り組ませた。この取り組みによって,その後の学習の中でも過程を意識する生徒の様子が見られるようになり,その後の学習に非常に良い影響を与えたと感じている。今後も科学的に探究する学習を充実させることを通して,理科の学習の有用性や探究の面白さを生徒に感じさせられるような授業を展開できるようさらに研鑽に励みたい。
本実践を考案するにあたり,鳴門教育大学理科教育コース粟田高明准教授には授業の草案から,研究主題と実践内容との整合性に関することまで,多大なご指導・ご助言をいただいた。また,所属校理科教員の福田幸司教頭,浅野欣史教諭,渡邊公星教諭にも,授業案の考案時や,プレ授業参観時に様々な視点でご助言をいただいた。皆様のご支援・ご理解と励ましに,心から感謝いたします。