中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

みんな違ってみんな良い算数・数学の問題・課題作り

浅口市立寄島学園 竹本 昌史

1.はじめに

算数・数学の問題は多くの場合,正解が1つです。例えば,(-5)+(+3)=-2です。
-2以外の数を書いていれば×になり,-2だと〇になります。
しかし,授業の中で私たちは,教科書を使ったり,オリジナルの教材を使ったりしながら,なぜ,(-5)+(+3)が-2になるのか,その考え方を伝えています。数直線を用いた考え方やトランプを用いた考え方など,そこに教師の工夫やアイディアが詰まっているはずです。
しかしながら,児童・生徒に問う問題は(-5)+(+3)で答えはー2だけです。計算問題が必要ないとは全く思っていませんが,あまりにも教師が授業で熱く語った内容や生徒が話し合った内容を,テストや問題演習の中で生徒が表現する機会がないのではないか?たった1つの正解を見つける問題で良いのだろうか?児童・生徒の自由な発想を問題として問うことはできないのだろうか?と考え,タイトルの「みんな違ってみんな良い算数・数学の問題・課題作り」について研究しています。附属中学校のような研究が盛んに行われている学校へ赴任した経験もなく,大学院で専門的に学んだ経験もない,教師歴20年目の普通の数学の教員が,目の前の膨大な仕事に押しつぶされながら,あくまで自分の頭の中だけで考えている内容ですが,少しでも全国の皆様の考える材料になれば幸いです。

2.実践

現在,行っている7年生での実践を4つ紹介します。

①小テスト

小テストは内容のまとまりごとに行い,2・3回の授業に対して1回行うようにしています。
知識・技能の力を測る問題はいわゆるワークや教科書の問いを出します。しかし,思考・判断・表現の力を測る問題はできる限りみんな違ってみんな良いとなるように,
「(ー5)+(+3)=の答えを3種類見つけなさい。」とか
「(ー5)+(+3)=ー2ですが,あなたはどのようにイメージしてこの計算を行いますか?説明してください」みたいな問題を出題します。それぞれについて詳しく紹介します。

「(ー5)+(+3)=の答えを3種類見つけなさい。」では,小テストの前に授業で発問し,かなり生徒たちは困った顔をしていました。しかし,=の意味,すなわち値が等しいということを伝えると,答えがー2になる計算なら何でも良いということに気づき,(ー3)+(+1)や0+(ー2)などの加法で答えた生徒,3ー5,0ー2,1000ー1002などの減法で答えた生徒,1×(ー2),(ー8)÷(+4)と乗法,除法で答えた生徒などがいました。小テストで同様の問題を出題した際にも,いつもの答えが1つだけの問題と違い,色々な答えが出せるので,1つ考えた生徒ももう1つ,さらにもう1つと考えていきました。授業で行った際には,自然に協働学習が生まれ,楽しそうにみんなのアイディアを共有していました。
ちなみに,採点基準ですが加点方式にしているので答えはいくつ書いても良いという形にしています。10個,20個書いていてそのうちの3個があっていれば満点という方式にしています。間違った答えを書いても,指摘はしますが減点にならないので,生徒は面白がって小テストの問題に答えてくれています。これまでのテスト問題では,正しい解答を答えてしまうとやることがなくなり,あとはただ待つという時間がどうしても生まれてしまっていましたがこのような問いに切り替えてから,そのような無駄な時間がなくなり,全員が時間いっぱい考え,新しいアイディアを生み出そうと頑張ってくれています。

「(ー5)+(+3)=ー2ですが,あなたはどのようにイメージしてこの計算を行いますか?説明してください」という問いに対しては,授業で行った教科書通りの説明である数直線上でー5をスタートにして,+3をたすということは右に3進むのでー2と言葉できちんと表せる生徒,数直線を書いて矢印で示している生徒,教科書に載っているトランプの赤のカード2枚だからと説明した生徒などがいました。授業で熱く語ったことや生徒の話し合いの中で出てきた言葉が多くテストの答えに表れ,嬉しく思いました。また,全く同じ答えを書いた生徒はおらず,こちらが想定してなかった答えも飛び出し,みんなの答えを紹介した際には,興味深そうに聞いていました。
採点については,上の課題では多くの生徒が満点を取ることができましたが,この課題はやはり言葉足らずだったり,説明が不十分だったりして,6点満点の問題としましたが6点,4点,2点の3段階に分かれました。
採点基準は甘いと思いますが,数直線という言葉や数直線を書いていれば2点,その数直線にもとの数を書けていたら4点とか表現の仕方で間違っているもの,例えば絶対値と書くべきところを数と書いている場合は4点などのように,私の感覚で部分点を出しました。これまでどれだけ頑張って計算しても,答えが違ったら0点としていた頑張り屋さんの生徒に対して,その頑張りを評価することができ,自分の中ではとても嬉しかったです。結果,記述問題への無回答率がほとんどなくなり,生徒全員の考え方やそのレベルがわかって,指導に生かせるようになりました。

②単元計画と単元を通して考える問い

単元計画の中に単元を通して考える問いを設定しました。中学1年生の1章「正の数・負の数」では「正の数・負の数は身の回りでどのようなところで役に立っているのか説明しよう。」として,「この質問を1章を学んでいる間,考え続け,そして答えを自分なりの答えを出しなさい。この質問は小テストでも単元テストでも必ず聞きます。」と説明しました。この問いは,授業の内容すべてを網羅しながら,教師が説明したことや子どもたちが考えたこと,ICT機器を使って調べたものなど全てが答えの対象になります。そして,何よりみんな違ってみんな良いという問題になります。
生徒の答えは自分が思ったより様々な答えでしたが,私が一番好きだったのは「2つの数量を比べた時に上がった時には正の数,下がった時には負の数で表すことができる。」という答えでした。この説明だと,かなり多くの場面を表現することができており,実生活の中で「これ授業の中で説明されたやつ!」とつながっていくのではないか期待しています。
また,借金と貯金や気温,という答えもありましたが,私的にはその場面しか表さないよね?他にないかな?と問いかけたり,他の生徒の答えを聞いてごらんと投げかけたりして答えを広げさせていきました。

③章末レポート

次に章末レポートについて紹介します。章が終わるタイミングで,レポートを書く時間を設定しています。レポート内容は1章の内容に関わること。これを自分なりにまとめてくることとしました。今回は初めてのレポート提出だったので過去のレポートを紹介しました。特に評価5のレポートを中心に紹介しました。私の中での評価基準は教科書に書いてあることがまとまっていれば3,授業で説明したことや自分なりのポイントが書いてあれば4,授業で習ったことを日常の中に広げたり,数学的なつながりを書けていたりすれば5と評価しています。このレポートもみんな違ってみんな良い取り組みになりました。それぞれに自分の視点でレポートを書いてきます。負の数の成り立ちから数の歴史について調べてきた生徒,自分の好きなキャラクターに内容の説明をさせている生徒,小テストの問題をさらに発展させ自分なりの考え方の説明を書いてきた生徒など,こちらの想像を超えた作品まで多く存在し,教師にとっても学びの多い取り組みになりました。あまりに全員のレポートのクオリティが高かったので,掲示物にして,廊下に掲示しました。

④算数・数学の自由研究

最後に算数・数学の自由研究について紹介します。私がこの企画を目にしたのが10年前ぐらいでしたが,それからは毎年,受け持ちの生徒は全員提出,それ以外の生徒には自由参加で応募のしおりを配ってきました。初めて生徒に提出させる際には,生徒に内容まで全て委ねることへの抵抗感が強く,本当に夏休みの課題として適しているのか,生徒が何も思いつかず何も書けなかったらどうしよう,内容があまりに未熟で数学的でなかったらどうしようとかいろいろ悩んでいたのを思い出します。
その結果,初年度に私が作ったのが下の自由研究についてという説明文です。何も書けない生徒への対策に多種多様な選択肢を書き並べたのを覚えています。しかし,これでは何も委ねていないし,そもそも自由研究ではないと今なら思います。
自由研究を夏休みの宿題にして一番驚いたのは,その提出率の高さと子どもたちの頑張りの凄さでした。特に普段,数学が苦手で宿題(ワークやプリントなどの計算問題)をほとんど提出しなかった生徒が自分なりの考えや実験を行った様子が本当に一生懸命書かれていました。
ただ,全員に宿題を提出させることが良しと思っていた10年前の自分にとって,この夏休みの自由研究は衝撃的で,今回の「みんな違ってみんな良い算数・数学の問題・課題作り」の最初の一歩だったように思います。これまで,何度も居残りをさせてようやく宿題を完成させていた生徒が,「アイスの当たり棒の出る確率を調べてみた」というテーマでひたすらアイスを買いに行って調べてみました!と笑顔いっぱいで報告してくれたり,「ルーローの三角形について調べてみた」というテーマで,家族総出でルーローの三角形型の掃除機と円型の掃除機で掃除できない隅っこの面積を比べてみたりと本当に毎年,毎年多くの思い出と生徒の頑張りを見ることができました。

3.終わりに

昔,『日本では「3+2=  」,外国では「 + =5」,子どもの数だけ答えがある。』というCMがあったように記憶しています。今回の実践はその考え方をベースにしながら,誰もが考えることでき,誰もが自分なりの答えを出すことができ,やる気さえあれば0点にならない問題・課題を作ることができるかという,私なりの結論です。
今は,どのように生きていくことが正解なのかどんどんわからなくなっている世の中のように感じています。
結局のところ,それぞれに自分なりの正解を見つけて生きていく世の中のようにも感じます。
そんな時代を生きていく子どもたちに
「どんな答えでも良いんだよ,でも自分なりにいろいろ考えて,友達の考え,教師の考え,世の中のいろいろな人の考えを聞いて,自分の考えをまとめてごらん。」
という問いを算数・数学という教科の枠の中で,いろいろ考えながら作っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。何か,あなたの考えのきっかけになれば嬉しいです。