近年, 英語教育への関心は年々高まりを見せております。特に民間試験の活用が進み, 大人も含めて英語力向上を目指す動きが顕著になっております。学習法に関しましては多様化が進み, 英文法を軽視して会話重視を掲げる場合もあれば, その逆も見られる状況です。英語学習の目的によって, 何が適切で何が不適切かを一概に定めることは困難です。
私自身は, 生徒が将来各自の目的に応じて英語力を伸ばせるよう, その土台を形成し, 自走可能な力を育成することを授業の目的としております。本稿では, その実践記録を報告いたします。
帯活動においては, 英語に親しみを持たせることを目的とし, 洋楽や英語歌詞を含む邦楽を教材として用いています。選曲については The Beatles や The Carpenters など親しみやすい曲に加え, 生徒アンケートを基に流行曲を取り入れる場合もあります。担当しています中学1年生は積極的に取り組んでおり, 歌唱活動に前向きな姿勢を示しています。
また, 生徒が廊下や休み時間に歌を口ずさむ様子も見られ, 授業外においても英語が浸透していることを確認できています。こうした経験は,自信や優越感につながり,英語への親近感を高める契機になると考えています。年度末には「イントロクイズ」を実施し, 学習した曲を振り返る計画を立てています。
授業において留意している点は二つあります。
第一は, 学習内容と生徒自身との関連です。学習事項が自己と結びつかない場合, 記憶定着は困難となり, 学習意義を実感しにくくなります。従って, 特定の場面において自己を表現できることを重視しています。その点, 使用しているBLUE SKYはタスク・ベースで設計されており, 語彙や文法学習の根拠が明確化されています。例えば Unit 1~4 で構成される Project 1 では「自己紹介」を中心に据えることで, 他者理解と自己表現の双方を実現できるようになっています。
第二は, 英語運用力の向上です。教科書に基づく理解や表現を基盤としつつ, 教科書外の英語に対応可能な汎用性を養成することを目指しています。そのため, フレーズ学習時には文法や語彙の用法を補足し, 単なる暗記に終わらないよう配慮しています。また,タスクに関連した小学校段階で学習した表現に理由付けを行うことで, より強固な記憶となるよう図っています。
授業を一通り終え, 例えば自己紹介が「書ける」「言える」状態に達した段階では, 文法や語彙をさらに深化させています。文法や語彙は基礎体力や基礎技術に相当し, その強化なくして技能向上は望めません。そのため, 語彙は異なる文脈での活用を促し, 文法は「単語替え」や瞬間英作文による訓練を通して表現力の拡張を図っています。さらに, 指導書付属の資料を活用し, 適語選択・語順整序・空所補充・和文英訳などの演習問題を作成し, Unit ごとに冊子として配布しています。これらは問題を解くこと自体を目的とするのではなく, 正確性と表現幅を広げる手段として位置付けています。
【授業スライド①】複数形の導入
【授業スライド②】教科書表現の派生(スピーキング_瞬間英作文)
【授業冊子】教科書表現の派生(ライティング_空所補充)
授業においては「授業中に覚える」ことを重要視しております。これは自走学習へ至る過程における補助的役割を果たすものです。そのため, 授業構成や冊子作成においては「変化のある繰り返し」を意識しています。特に「言える → 書ける」の順序を重視しています。
授業内ではペア・グループ活動による競争, スライドを用いた瞬間英作文, Kahoot! によるクイズ形式を取り入れ, 発話を中心に練習を行っています。その後, 自宅学習で冊子を活用し, 語順整序 → 空所補充 → 和文英訳と形式を変えながら復習を行わせています。これにより, 同一表現の再生を自然に促す仕組みを整えています。さらに, 主語の変更や単語替えを加えることで, 無思考的な解答を防ぎ, 定着を深めています。加えて, 新しい Unit に進んでも既習事項を残すことで, 漆塗りのように重層的な学習を図っています。
【授業冊子②】十分な音読の後での本文再生(空所補充→語順整序)
【授業冊子③】本文再生_スピーキング(絵・キーワード付)
学校教育における試験は多様な目的を有しています。特に英語に関しては「英語は教科ではなくコミュニケーションツールである」との観点から, 試験学習が否定的に捉えられることも少なくありません。
しかしながら, 試験は英語運用力を高めるための有効な手段であると考えています。例えば語順整序問題は, 正しい語順で表現・理解する力を養成します。適語選択問題は, 文法や語法の正確な理解を促します。従って, 試験問題を通じて基礎力を磨き, その上で実際のコミュニケーション場面で活用することで, 運用力を向上させることが可能であると考えています。授業の中でも,試験問題を活用しながら,必要な知識・技能を認識し,定着させることも実践しています。
【定期テスト】適語選択・自己紹介
英語学習法は目的によって適切な手段が異なります。学校教育においては, 生徒が将来自学できる基礎力を培うことが重要だと思っています。さらに, 英語を理解し表現できる経験を通じて自信を獲得し, 他者とのつながりを実感することが, 学習の自発性につながると考えています。そのためには, 「授業で扱った」「なぜか覚えている」といった経験を生徒に残すことが重要です。
これらのことを実現するために,今後も生徒の様子を丁寧に観察し, 受容力を高めながら, 自身の英語力および授業力の研鑽に努め, 生徒の将来につながる授業を目指していきます。